君たちには言われたくないです。
またまたポニーテールをさせられていた。
光が私の姿を見てニヤニヤしながら写真を撮ってやがる。ついでに柳くんまで便乗して撮っている。いやいやあなたはこないだ散々撮ったでしょ!
妨害してやろうと、柳くんのレンズの前に手を翳してみるが容赦なくパチンッと振り払われる。
「名前似おうとるで……ぷっ」
「で、なんで光は笑ってるのかなあ?ねえ?」
「いやあ思ったより似おうとるわ」
「それで笑ってたの?何でこうも私の周りには失礼なやつばっかりいるのかなあ?」
誰のことだ?と言わんばかりの表情をわざと浮かべている柳くんを一瞥する。君だよ、君。
「ほんま、名前って顔はええのに中身がともなってないってゆーか」
また光が失礼なこと言い始めた。ってかお前に言われたくないよその言葉。
「光の方がずっと残念だから。絶対モテてるでしょ」
「まあ、それなりにわな」
「認めるんかい!」
「苗字の顔も人気はあるんだがな」
「まあ顔だけはええですしね」
「いや、だからさあ……」
言いかけたが、面倒になって口を閉ざした。黙ってツノッター見始める。すると、2人は隣で私の悪口を言い出した。つい、ツノッターを見る振りして聞いてしまう。
「女子力が皆無だ。俺でさえ櫛を持ち歩いているというのに、鏡も持っていないとは」
はいはい、そうですねー。
「女捨ててるっスわ。名前は家事もできへんしなぁ」
そうですねーお母さんに頼りっぱなしですねー。
「家庭的な子のがタイプっすよね、名前はほんま真逆やわ」
は?家庭的な女の子?光の好みのタイプなんか知るか!!っていうかミカちゃん違うんかい!とツッコミを入れまくるも次から次へと私の悪口は続く。
「約束に遅れて来たことは今のところないが、学校の遅刻が多すぎる。時間とお金にルーズなやつは信用ならんな」
「名前の根本のだらしなさが学校生活でも見事に露見してますわ」
学校の遅刻が多いのは認めるけど!さ!でも!ねえ!
「頭の中は腐りまくってるし、苗字のいいとこはやはり顔だけだな」
「違いないっすわ」
そんなに言わなくていいでしょ!散々だなあーもう!我慢ならない!
私はスマホを置いて2人に言い放った。
「あのねえ!2人とも人のこと言えないから!わかってる?“ミカは俺の嫁”とか言っちゃう光とかポニーテールについて原稿用紙5枚くらい語れる柳くんも相当だから!!」
すると2人は腹立たしいほど落ち着いた様子でしれっと「だって俺の嫁やし」「10枚はいけるぞ」という言葉を返してきた。
私はなんだか呆れ果てちゃって、怒りが消沈していった。
このペア面倒臭いな。光が来る日は柳くん呼ばないでおこう。
そう、決心した休日の夕方であった。
翌日のこと。図書委員の当番のため放課後に私は図書室にいた。本はあまり読まないので時間を潰すとなるといつも通り絵を描くかスマホをいじるくらいしかない。
ふと、外を見ると遠目にテニスコートが見えた。そこに一際目立つ銀色が。
そういえば仁王くんのイラスト描く約束したのに描いていない。今描けるけど、参考もなしに描けるなんて普通おかしいからやっぱり声かけたほうがいいんだろうな。
なんて考えながら私はまた作業に戻った。ちなみにローズクォーツちゃんとアクアマリンちゃんって子を描いている。
集中していたらあっという間に完全下校時間の15分前となった。鍵は司書さんに預けて私は図書室を後にする。
ふう。やっと面倒事が終わった。早く帰ってさっきの色塗りしよーっと。
柳くんの誕生日イラスト描いて以来、アナログにハマっているのだ。コピックで塗るのが楽しい。
ニコニコとした面持ちで昇降口を出る。校門のあたりまで来たときに、テニス部の人たちと会った。ちなみに、仁王くんと柳生くんと切原くんと丸井くんにジャッカルくん。三強はどうやらいないようだ。
「あ!苗字!」
最初に声をかけてきたのは丸井くんだった。それに続いて切原くんが私を指して言った。
「こないだの可愛い先輩!」
もしかしてテニスコート横で眠りこけてしまった日のことを言っているのだろうか。私なんかより切原くんのほうがずっとずっと可愛いよって言ってあげたい。でも、気味悪がられても嫌なので心の中に留めておいた。
「可愛くはないけど、確かにこないだテニスコート横で寝てた先輩だよ」
「ハハッ、ぐっすりでしたね!」
なんて元気に言う切原くんに悪意はないんだろうけど、あのときのことはやはり恥ずかしいのであまり思い出したくない。私が苦笑いを浮かべていると、丸井くんが隣にやってきた。
「おい、赤也。俺が先に話しかけたんだよ。何勝手に話始めてんだよぃ」
「だって俺、苗字先輩と話してみたかったんすよ!」
「ふふ、可愛い」
思わず言ってしまった。嫌な気にさせたかな?って心配になったけど、切原くんはにかっと笑った。
「苗字先輩のほうが可愛いッス!」
「切原くんのそういうところが可愛いよ」
「そっすか?あっ!俺のことは赤也でいいっすよ。名前の方が呼ばれ慣れてるんで」
「じゃあ赤也くんって呼ぶね」
にっこりとしたら、赤也くんは嬉しそうにしてくれた。
やっぱりこの子可愛い!!!
なんたって、柳くんが唯一攻めに転じる相手だからね!まあ赤柳もめちゃくちゃ良いと思うし大好物だけど!!
なんて脳内でCPにしていることがバレたら引かれるんだろうなあ。何が何でも口滑らさないようにしなきゃ。
「ところで丸井くんは私に用があったの?」
少し不服そうにしていた彼にそう問いかけると、丸井くんはちょっと驚いたような顔をした。かと思えば焦ったように口をごもごもとさせた。
「え、いやー用っつか、まあ用か?そのーさ、連絡先教えてくれねえかなあと」
そんなこと言われると思わなくて私は少しきょとんとする。
私みたいなオタクと、丸井くんみたいな流行の中で生きていそうな男の子とじゃ話すことあんまりないだろうに……なんて自虐的なことを考えながら「いいよ」って了承した。
「んじゃ、さっそく「俺も知りたいっス!」
赤也くんがスマホを手に眩しい笑顔を浮かべて割り込んできた。赤也くんとも話すこと全然思い浮かばないけどオッケーだよ。なんてもちろん口にはしない。
2人と交換していると、後ろで柳生くんたちと話していただろう仁王くんが入ってきた。
「俺も教えてくれんか?まあ、約束もあるしの」
約束、それはイラストのことだろう。そういえば声を掛けようと思っていたしラッキーだ。彼の元に赴く手間が省けた。
「そうだったね。いいよ」
「ん?約束って何なんだよ、仁王」
「秘密じゃき」
「んじゃっ苗字先輩が教えてください!」
仁王くんが答えないなら突然こちらに質問が振られるわけで、しかしながら私も言う気はない。
彼は秘密にしたいようだし、私自身もあんまり広まってほしいものじゃないからね。私は人差し指を唇に当てて言った。
「秘密」
「ええー先輩までつれないっすよー」
それから途中まで私は彼らと一緒に帰った。
仁王くんとは電車の方面が同じで、どうやら家が近いらしい。そりゃ夜中にコンビニで出会うはずだよね。あんまりこの辺で会ったことない気がするけど、家を出たり帰ったりする時間帯が全然違いそうだしそりゃそうか。
(~20180712)執筆
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