揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

バレた挙句、明け渡してしまいました。


 見学させてねと言った手前、近々行ったほうがいい気がして私はテニスコート横に向かっていた。最近はじっくり見ることは減っていたので改めて彼らのデータを更新しようと思う。なんか柳くんみたいなこと言ってんな。

 とはいえ、あながち間違いでもない。よく見学していた頃はノートを片手に彼らの特徴とかあったことをメモしていた。近くの木陰からデッサンをしていた日もある。
そういえばいつからテニス部の人たちで漫画描いていたんだっけ。忘れてしまったなあ。気づけばやっていた、という感じだし。
 っていうかそれってもはやテニス部のファンってことでよくないか?なんて今更めいたことを思う。


 テニスコートに着くと、すぐに仁王くんがこちらに気づいて隣の丸井くんに私がいることを伝えた。すると丸井くんはこちらを向いてウインクしながらピースした。

「「「キャーーーー!!」」」

 私の周りにいた子達の悲鳴みたいな黄色い声が湧き上がった。私はびっくりして肩をびくんと揺らした。みんなにファンサだなんて丸井くんは前よりサービス精神向上したんだなあ。


 そして翌日は屋上に来ていた。丸井くんの次は仁王くんの呼び出しである。
 昨日の夜中の2時くらいに『明日の昼休み、屋上に来てほしいんじゃけど』とメッセージがきた。他の子だったら起きてなかったかもよって感じの時間だけど、仁王くんはその辺はあんま気にしない人なのかな。とりあえず、イラストのことだろうと思って私は画用紙とコピックを持ってきていた。

 少し待っていると仁王くんがやってくる。

「待たせたかのぅ?すまん」

 丸井くんといい男の子って結構気遣いできるんだね。柳くん以外の男の子と大して交流のない私は知らなかった。っていうか柳くんなら確実にそんなこと私に言わないよ。ん?私だからか?まあいいや。

 私は首を横に振って大丈夫だと言った。

「お、持ってきてるの。優秀優秀」

 画用紙とコピックを見つけた仁王くんは嬉しそうにそう言った。そんなにイラスト描いてもらうのが嬉しいのかなあ。
 ひとまず、私たちは昼ご飯を食べることにした。

「仁王くんそれだけなの?」

 あまりに彼のご飯が少なかったのでそう問いかけてしまった。惣菜パンが2つと紙パックのコーヒーのみだったのだ。
 だって丸井くんはこれプラス定食食べていたような……。男子高校生は育ち盛りだからいっぱい食べるって考えは間違っていたのか?

「まあこれで足りるしの」
「ふうん、足りるならそれでいいけど」

 そう言って私はお箸をケースから取り出す。すると、少し驚いた様子で仁王くんは口を開いた。

「おまんは栄養足らないでしょ、とかもっと食べたほうがいいよ、とかお弁当あげよっか?とか言わんのか?」
「え?仁王くん本人が足りるって言ってるんだから足りてるんじゃないの?」
「お、おん、そうじゃけど」

 よくわからないな。なんか噛み合ってない気がする。もしやお弁当が欲しかったのか!?なるほど、そうかもしれない!
 私は春巻きを差し出しながら聞いた。

「もしかして欲しかった?」
「い、いや、そういうわけじゃなか」
「う、うん?そっか」

 私は自分の口の中にその春巻きを入れる。咀嚼しながら、違うかったんだ……じゃあ何だったのだろうと考えた。
 うーん?わからないし、今度柳くんにでも真意を聞いてみようかな。

 それから食べ終わった後に、私は約束通り絵を描いた。目の前にいる状態で描ける機会なんてそうそうないので、私はじっくり観察しながら描く。
 その間、仁王くんは何するわけでもなく、作業する私を眺めていた。スマホいじってていいよ?って言ったのにしないのは、気を使われているのかもしれない。

 そして、下書きが終わる頃だった。仁王くんがあのことについて質問してきたのは。

「おまん、まだあの時の写真持っとるんじゃろ?」

 あの時の写真?なんの話だ?え?
 困惑している私を見て仁王くんはくつくつと肩を揺らす。

「球技会じゃよ」
「あ〜残してr……はっ……!い、いや!残してないよ!

 あからさまに言い直してしまった。これでは残していますと言っているようなもんだ。仁王くんはそんな私を見てけらけら笑っている。うーん、白状するしかなさそうだ。

「うう、持ってるよ、認めます……」

 私はうつむき気味で仁王くんに視線をやる。相変わらず楽しそうな笑みを浮かべている。

「その写真、俺に送りんしゃい」
「は?」

 待って待ってアレほしいの?消したくて柳くんと結託して追っかけていたんじゃなかったの?え?
 ますます私の頭は混乱状態に陥る。
 それにしたって、そんなものを欲しがるということは何か企んでいるに違いないよな。そんなことしたら絶対に柳くんに怒られるし断らなきゃ。

「柳くんに怒られたくないしそれだけはあげられないかなあ」

 ごめんねと私が言うと、仁王くんは口角を上げて、嫌な予感しかしない表情をニヤリと浮かべた。

「苗字って腐女子なんじゃろ?さあて、その真実……どうしてくれようかのぅ?」

 なんて?フジョシ?婦女子?腐女子?え?仁王くんから変な単語が聞こえてきたぞ。ううん?腐った女子で腐女子のこと言っているよね?はいぃぃ!?何でバレてるの!?

「何で知っているのか、かの?……ククッ、あんな写真を残したがるということは腐女子と言うてるようなもんナリ」

 ああー……そんなことまで考えてなかったけどそりゃそうだ。しまったなあ。仁王くんにバレてしまった……。
 っていうか仁王くんこそなんで「腐女子」なんて言葉知ってるの?少なからずネットや二次元の世界に足突っ込んでないとその言葉知らなくない?

 ……ということはつまり、仁王くんもオタク?
 これは聞いてみるしかないな。というか言い切ってしまおう。

「その言葉知ってるってことは多少なりとも仁王くんは“オタク”なんだね」
「プピーナ」
「え?図星ってこと?」
「ケロケロ」

 図星ってことにしとこう。

 そうして私は明け渡してしまったのである。友達に送ってまで保存し死守した、仁王くんが柳くんの上に乗っかっている写真を……。

Chapter1 is over.To be continued.
(~20180717)執筆

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