揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

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 6月に入った。うちのクラスは二ヶ月に一度席替えをするのだが、なんとまあ柳くんと隣になっちまった。柳くんがいつものように猫かぶって私に綺麗な微笑を向けている。本当にクラスにいるときと私の前だとじゃキャラ違うよね!!その化けの皮を剥いでやりてえわ!

 というか、そんなことより問題なのは、寝ていたら起こされそうなことだ。絶対に寝させてやくれない。お絵かきしていても怒られそうだし私は一体、授業中に何をしたらいいのだ(真面目に授業を受けろ)
 あと心配なのは先生がやたら私と柳くんをセットにクラスのみんなの前でからかうからそれが増えそうなことかな。ってか席が隣になったということで先ほどからかわれたばかりだ。
 ああー誰か席変わってくんないかなー多分先生許さないんだろうなー……。


「そういえば、苗字は張り出された“立海ニュース”を見たか?」

 授業の合間の時間に柳くんは突然そんなことを聞いてきた。立海ニュースというのはその名の通り立海の出来事がまとめられた記事のことである。月に一度、先月分についてまとめられたものが掲示板に掲載されるのだ。

「見てないけど」
「……フッ……では、今から一緒に見に行かないか?」

 うわ、今一瞬笑ったよね。嫌な予感しかしない。一体何が書かれているというんだ。私は気になったので頷いて立ち上がった。一緒に掲示板の前に向かう。
 するとそこには丸井くんと仁王くんがおり、私の顔を見るなり「あっ」と声をあげた。

「本物の苗字!」

 丸井くんが続けてそう言った。本物ってどういうことだ。

「つーか災難だったな!」
「さ、災難?」

 次から次へと突っ込みたいことばかり言われて私は混乱した。そんな私を見かねて仁王くんが記事を指して言った。

「見てみんしゃい」

 そこには私が顔面にボールを食らった写真がどんっと載っている。なになに?『顔面にボール 優勝のきっかけをつくる!』と見出しが付いている。

「はああっ!?ちょっ、これ柳くんが撮ったやつ!!!」

 私は柳くんの腕に掴みかかった。

「この写真!確かに消してもらうのは諦めたけどこんなのに使うことは了承していないよ!!」
「使うなとは言わなかっただろう」
「いやいやそんなん使うとか思わないじゃん!!!」

 大声で不平不満をぶつけていたら隣から笑い声が聞こえてくる。

「ははっ!苗字って面白いな」
「いいペアしてるぜよ」

 はあっ!?ぺ、ペアってねえ……っ!

「あのね仁王くん、こないだといい何か勘違いを……あっ」

 予鈴が鳴り響いた。柳くんは透かさず仁王くんと丸井くんに「ではな」と一言、踵を返した。

「と、とにかく、そんなんじゃないからね!」

 私は言い聞かせるように言葉を放って、柳くんの後を追った。

 その場を去った後にこんな会話をしている事を私は知らない。

「大人しめかと思ってたけどあいつ明るくて面白ぇじゃん」
「やっぱ参謀の“お気に入り”は違うのぅ」
「俺、今度あいつの連絡先聞こーっと」

******

 立海ニュースにあの写真が掲載されたことを知った数日後のことだった。
 それに載せたいくらい私には衝撃なことが起きた。

「俺としたことが資料集を忘れてしまってな……見せてくれないか?」

 誰から見ても私は阿呆面をしていたことだろう。自覚もある。
 だってあの柳くんだよ?あのっていうかこの柳蓮二が忘れ物とかするの??やばくない?

 超 絶 可 愛 い か よ ! ! !

 何なの、この人はギャップ萌えという名の攻撃で私を殺したいの???

「は、はい、どうぞ」

 とりあえず、二つの机を合わせた真ん中で資料集を広げる。

 あああ、むり。にやけが止まらん。

 私は堪え切れなくなって手で口元を覆った。2人きりだったら確実にこの頭は勢いよく叩かれていたことだろう。なんか少しイラっとした顔をしていらっしゃる。

 それにしたって忘れ物する柳くんとか本当に可愛いすぎない?今初めて、席隣になって良かったって思ったよ。

 ちなみに私は教科書類を忘れることはあまりない。もちろん全て学校に置いているからだ。その反面、エプロンや裁縫セットなどのイレギュラーなものは忘れがちだ。ところが、最近は前日の晩に柳くんがご丁寧にも
『間抜けなお前のために教えてやろう。明日は裁縫セットが必要だぞ』
 とメッセージをくれるので忘れ物が減った。何だかんだ親切だよね。口悪いのが玉に瑕だけど。


 その日の帰り際のときだった。一緒に帰っている友達のもとへ行こうとしたら腕を引かれた。

「わっ」

 後ろに少しよろめいた瞬間に耳元で「日曜日、出かけるぞ」と言われた。メッセージを使わずわざわざ直接言ってくるということは絶対的な約束らしい。まあ、日曜は運良く(?)何も予定入れていない。

 その後、友達と合流したときに何言われたの?って聞かれた。「何でもない」って答えると問いただされるような気がしたので、「資料集を貸したお礼をもう一度言われた」と答えておいた。2人で出かけるなんて言ったらまた茶化されかねない。

 帰宅すると私はイラストを描く作業に取り掛かった。今回は光からのお仕事ではなく、柳くんへの誕生日プレゼントのための絵だ。まあ、柳くんはどう思っているか知らないけど私は友達だと思っているし、誕生日プレゼントくらいあげようというわけだ。
 普段はデジタルで描くが、今回は「物」としてあげるためにもアナログにした。理想はスキャンしたデータは0時に送って、実物を後日に渡すことだ。
 A4のちょっと良い用紙が残っていたのでそれに描いた。

「よーし、できたー!」

 そうして11時を回った頃に完成した。できることなら0時までにこれをデータにしたいが、こんな夜中に家を出るのも憚られる。いや、しかし我ながら良い出来なので0時に送りたい……。

 よし、こっそりコンビニに行ってやろう。良い子は真似しちゃダメだよ。深夜徘徊ですから。

 私は内心ドッキドキでコンビニへと入る。だが、補導されたら元も子もないので出来るだけ堂々とした。頑張って澄ました顔でコピー機を操作する。

 便利な世の中なのでコンビニのコピー機を使えばスマホにスキャンした画像を保存できるらしい。私は冷や汗をかきつつも「早く終わってくれ」とコピー機を睨む。

 すると、突然誰かの手が私の肩に乗った。

「うわああっ!!」

(~20180704)執筆

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