揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

描くのはお安い御用ですけど。


「うわああっ!!」

 思わず声を上げて振り返る。そこにいたのは銀髪の美形青年。仁王くんだった。

「に、仁王くん、かあ……びっくりしたあ……はあ、」

 私は盛大に安堵のため息をつく。
 ほんと、いつもなら肩叩かれたくらいでこんな叫び声あげないよ。警察とか店員に声かけられないかヒヤヒヤしていたからね。まじめに驚かさないでほしい。

「えっと、仁王くんはこんなところで何してるの?」
「それはこっちのセリフぜよ。お前さんこそこんな時間に1人で何しとるんじゃ?」

 質問に質問で返されてしまった。とりあえず私は「色々」とだけ答える。仁王くんは怪訝そうな顔をしたあと、おもむろにコピー機に視線をやった。

「あっ!ちょっ!」

 スキャンが終わっているのを見て取れたのか、彼はコピー機の蓋を開けて素早くイラストを手に取った。

「イラスト、かの」

 うわあ〜ギャルゲの女の子2人を描いたイラスト見られちゃった。とてつもなく恥ずかしい。

「見ないでっ」

 仁王くんに掴みかかろうとしたがくるりと回って避けられた。乱暴に取り返そうとしたらせっかく描いたイラストが台無しになるよね。はて、どうしたものか。

 そんな私の焦燥をよそに仁王くんは呑気に言った。

「上手いもんやのう」
「え、あ、ありがとう……」
「そうじゃ、今度俺を描いてくれんか?」

 振り向いた仁王くんは自分の顔を指でさした。
 そりゃあしょっちゅう描いているからお安い御用だけど、なんて言えるわけがない。そのため、差し障りのない返答をしておく。

「機会があればね」
「約束ぜよ」

 そういって笑顔で小指を差し出してきた。なにそれ可愛い。ネタいただきました。
 82かブンニオの漫画に入れるよ。そういえば仁王くんも柳くんが相手じゃない限り受けばっかだな、ってその時に気づいた。


「約束はできん、と?」

 そう言われてはっとする。
 つい腐った思考に耽っちゃって相手にするの忘れていた。私は慌てて小指を絡める。
 あれ……仁王くんの手、柳くんの手より大きい気がする。えっ柳くんの方が小さいとか柳くんかわゆっ!まじか!はあ〜こんなところでも仁柳をみせつけてくれちゃって〜。

 ってか体に似合わず男前な手だね、仁王くん。なんかこう骨ばってる。柳くんのは指がすっと伸びてて、しなやかって言うのかな?一言で表すとすごく綺麗な手。もちろん柳くんも大きかったんだけどね。
 とにかく私のイラストと漫画の精度が上がったよ、ありがとう仁王くん。

 なんてまた自分ワールドに入ってしまった。仁王くんはまじまじと自分の指を見る私を不思議に感じてか、首を傾げている。

「そんなに手が気になるんか?」
「え、いやあ、意外と男前な手だなって」
「意外と、か。傷つくのう」
「ご、ごめん!柳くんより男らしい手だと思うよ!!」

 もはや自分でもフォローになっているのか、なってないのかわからない。仁王くんは複雑そうに問いかける。

「それ、褒めとるんじゃよな?」
「もちろん、2人とも褒めてる。かっこいい素敵な手だよ!」

 励ますようにガッツポーズ付きで言った。仁王くんはそんな私を見てくつくつと笑った。

「ククッ、案外ストレートなやつ」
「そうかなあ?……あ!いけないっ時間が!」

 私はとっさにスマホを見る。11時42分。0時ちょうどに送りたくてここに来たのに出来なかったなんてショックすぎるからね。
 仁王くんの前で柳くんに送信できるわけもないしとりあえず帰ろう。

「私、今すぐ帰らなきゃいけないの、じゃあね!」

 慌ててイラストを受け取って、持ってきたファイルにしまう。コンビニを出ようとするが、引き止められた。

「待ちんしゃい。送っちゃる」
「大丈夫だよ」
「大丈夫なわけなか。おまん、女って自覚持った方がいいぜよ」

 その言葉を聞いて私はこないだ柳くんが家に来たときとのことを思い出した。それで、無意識に私は言葉を零していた。

「柳くんも似たようなこと言ってたなあ……」
「参謀が?いったいどんなシチュエーションで言われたんじゃ」
「へっ!?い、いやあ……色々ね、うん」
「ほう……おまんらどんな関係なんかのう?」

 隣を歩きながら仁王くんが私の顔を覗き込んできた。暗くてよく見えないけどやっぱり仁王くんイケメn……ってそんな場合じゃない!めっちゃ怪しまれてるよ私たち!
 何か嘘でもいいし納得してもらえる説明ないかな、と頭を捻らす。するとバッチリな話を思い出した。

「ただの友達だよ。えっとね、恥ずかしい話なんだけど、こないだの球技会のときに雨で私の下着が透けてたの。それに気づかなくて柳くんが上着貸してくれたんだけど、その時にね……あはは……」

 ものすごく言い訳くさい話し方しているが、話の内容はもっともなので仁王くんはそうかって頷いてくれた。

 そうこうしてると家に着いた。

「仁王くん、ありがとう」
「おん、お礼はイラストでええよ」
「そんなに描いて欲しいの?」
「じゃってそんな機会なかなかないけえの」

 ふうん、と相槌を打つ。

「わかった。じゃあ、またね」

 私は手を振ってそっと家に入った。よし、バレてない。とりあえず0時になるまであと5分なので着替えは後にして自分の部屋に入ろう。

 そして、私は0時ちょうどに画像と共にお祝いのメッセージを送った。
 少しすると返事がくる。

『お前が誕生日プレゼントを用意している確率はそう高くなかった。素敵なイラストをありがとう。日曜日、実物をもらうのを楽しみにしている』

 やっぱり柳くんは神崎ちゃんや櫻子ちゃん関連だと素直な気がする。


 翌日、学校に行くと柳くんの机の上は直接渡す勇気のない女の子たちからのプレゼントが置かれ、さらには渡しにきた女の子たちで溢れていた。ひとまず座れそうにないので友達のところに行く。

「おはよー」
「おはよう、名前。一体いくつになるんだろうねアレ」
「柳くんはそういうデータも絶対取るだろうし聞いてみたら?」
「隣なんだし名前が聞いてよ」
「えー」

 なんて笑いながら話していたら今日の主役の柳くんは教室に入ってきた。すでに紙袋を抱えている。ありゃあ持って帰るのも一苦労だな。

 チャイムが鳴り、女子たちが退散していく。私はようやく自分の席に座って挨拶する。

「おはよう、柳くん。それと2度目だけど誕生日おめでとう」
「ああ。あの絵、なかなか良かったぞ。さすがに苗字も俺の趣味を理解してきたようだな」
「まあねー」
「ところで苗字の家にはコピー機があるのか?」
「うーん、それが欲しいんだけどないんだよねえ」

 突拍子も無い質問に首を傾げながら答える。

 私としてはアナログで描いたのをスキャンしてそれを下書きにデジタルで描きたいときもあるからやっぱ欲しいなあ。と理由まで説明したのに、想像に反した言葉が返ってきた。

「では、お前は昨日の夜中にコンビニに行ったのか?いったい何時だ?」
「えっと、着いたのは11時20分くらいだったかな」
「なに?」

 突然怖い形相で腕を掴まれた。自然と体が柳くんの方を向いた。

「つい先日に“男”の話をした矢先だろう」
「で、でも帰りは仁王くんが送ってくれたから大丈夫だよ」
「は?仁王だと?」
「うん、なんか偶々会って」
「イラストを見られたのか?」
「見られたけどこれは何かとかは聞かれなくて、ただただ俺を描いてほしいって言われた」

 ほう、と柳くんは顎に手をやって考え出した。今、彼の頭の中ではぐるぐると色んなことが巡っているのだろう。

 私はそのあいだ仁王くんって意外に優しいんだなあ、なんて思っていた。数回しか話したことない同級生の女子を家まで送ってあげるんだもんな、あんまり女子と関わる気がないって聞いたことあるんだけど。まあ夜中の12時前に一人で帰るとか言われたら送るのが男の中では普通なのかもしれない。柳くんだってそうしたかも。

(~201800708)執筆

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