揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

やはり私の頭はそればっかりです。


 ポニーテールにされて頭が重い。柳くんは嬉しそうに以前使っていただろうスマホで写真を撮っている。一体何枚撮る気なんだってぐらい撮ってやがる。相変わらず物好きだな。

「やはりお前はセーラー服にポニーテールが似合うな。セーラー服の学校に転校して普段からポニーテールにしてみたらどうだ?」

 柳くんが異様にテンション高くて変な冗談言っている。柳くんってこんなキャラだっけ。

「頭大丈夫?」
「苗字の頭よりも遥かに正常なつもりだ」
「それは他の人よりは異常な自覚があるの?」
「フェチに関してはな」

自覚あったのかよ!!!!

「そ、そうですか……」
「ああ」


 そうして彼が思う存分写真を撮り終わった。ってか今思えば異様だよね。友達だろうと誰一人にも言えない……。

 ひとまず、私が彼を観察して半裸の写真をいただく番なので、とりあえず着替えるべく部屋を出ようする。しかし、引き止められた。

「そのままでいろ」
「ええーやだ」
「お前は確か“よかったら半裸の写真がほしい”と言っていたな。苗字が着替えてしまえば観察だけになるがいいのか?」
「ほんと、よくそんなとこまで覚えてるよね!!むかつく!」

 ってなわけでこのまま観察しなければならなくなった。なんだか不平等感が否めないけど相手は柳くんだしもう仕方ない。

 着てきたシャツを脱ぐ柳くんはちょっとエロかった。いや、色気があったというほうが適切かもしれない。

 うわあ〜(妄想の)幸村くんはこの柳くんを見てムラムラしちゃうんだろな〜!そして押し倒されてイチャコラ……。

 なんて男の半裸を見てもBLしか考えが湧かない私はやっぱり他の女の子とは違うんだろう。

「にやにやして気持ち悪いな」

 バシッ
 久し振りに柳くんの手が私の頭を軽快に叩く。

「いたっ」
「どうせ脳内で妄想していたのだろう?精市か?仁王か?」
「仁王くん!!!それもありだよね!!!押し倒された図はしっかり頭にあるからね!!!」

 思わず口にしてしまったその瞬間。

 パーンッ!!

 痛い。また叩かれた……。

 たとえ私がポニーテールで制服姿だろうと柳くんは容赦なく叩くというデータが今日は得られました。まる。

 それからスマホで写真撮影をした。後ほどこれはパソコンの隠しファイルに保存して、スマホからは消すつもりだ。

「筋肉結構あるんだねー、さっすがテニス部」

 ペチペチと胸板を叩いてみたり腕を握ってみたりする。がっちりしてて男〜って感じだ。まあ見てないから知らないけど、幸村くんとか仁王くんの方が細いんだろうなあ。でもやっぱり柳くんは受けがいいなあ。はあ、かわいい……(妄想の)柳くん。

 お次は手を取ってまじまじと見入る。

「柳くんの指、綺麗だね。大きくて男っぽいんだけど、でもなんかすらっとしてて」
「姉も似たようなことを言っていた」
「へえ、でも多分みんなそう思うよ。本当に綺麗」

 そっと手の甲を撫でる。ええっなんでこんなにすべすべなの!?私の方がガサガサなんじゃね!?ってくらい滑らかだ。楽しくなってそのまま指やら掌やら撫でる。

「……っ、苗字」
「ん?なに?」

 手を止めて見上げれば複雑そうな顔をしていた。

「くすぐったいのだが……」
「え、柳くんってもしかして、こしょこしょ効くの!?くらえー!」

 脇めがけて腕を伸ばし、くすぐってやる。

「お、いっ、やめないか……!」

 柳くんか!わ!い!い! 可 愛 す ぎ !!!

 これはいい顔が見られました!写真撮れないのが残念すぎる。

 ふざけてこしょこしょを続けていたらいきなり視界が反転した。

「うわっ」

 思いのほか強く押し倒されて、背中が痛い。私の部屋にはマットなんて敷いてないからフローリングに直接打ち付けたわけだ。

「いい加減にしろ、苗字」

 怒り口調の柳くんであったが、表情は怒りというには少し異なり、様子が変だった。

「柳、くん……?」
「誘いに応じた挙句、その姿のままでいろと言った俺が言うのも何だが、お前はもう少し“男”がどういう生き物か知るべきだ」
「ほ、ほう……?」

 BLの世界の男なら、なんて言い出せる雰囲気じゃないことくらいはわかるので黙った。

「お前が思っている以上に男共は苗字を下品な目で見ているし、考えているんだぞ」

 それはつい一昨日の雨で下着が透けていた件のことを言っているのだろうか。と思い浮かべてみるが柳くんの言い方が抽象的すぎていまいちピンときていない。

「とにかく、俺も然りだ」
「は、はあ」
「どうやらわかっていないようだな。たとえば今、俺が苗字を襲ったらお前では抵抗できないぞ?」
「でもさ、柳くんがそんなことするわけないじゃん」

 目を見開いて私を見下ろす柳くん。なんでそんな驚いているのかわからなくて私はぼんやり彼を見つめる。
 すると柳くんは大きなため息をついて私の上からどいた。

「どうしてお前はそういうところだけ無駄に俺を信用しているんだ……」

 体を起こして柳くんの方を見る。呆れたようにノートに何か書いている。ちゃんとメモすんのかい!っていつもみたいにツッコミたかったけどやめた。

 その後はひとしきり観察してデッサンをさせてもらった。その間、柳くんは私のパソコンで“じゅえる少女”をやっている。私のアカはログアウトして、自分のアカを作るように言った。私が一番欲しいキャラを見事に目の前で出しやがってこちとらキレたい。
 っていうか半裸で美少女ゲーやってる柳くんとかマジでおかしいよなって今更の感想を抱く。だってあの柳蓮二だもんな。口が裂けても誰にも言えないな(もし言ったら叩かれるどころじゃすまなさそう)。


 柳くんが帰ってから少しした頃だった。光から電話がかかってきた。てっきりまた何か忘れてるのかと思えば6月6日に東京に用があるから、5日にうちに泊まりに来るという話だった。お母さんが断るわけもないと思い「オッケー、伝えとく」って返事したあとは少し駄弁って電話を切った。
 会うのは正月ぶりなのでちょっと久しぶりだ。今みたいに電話はわりとするけど顔を合わすことは少ない。まああっち大阪だしね。

(~20180630)執筆

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