揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

ポニーテールが必須ではない。


 俺は苗字との約束の10分前に着くように駅に向かった。今までの約束は全て俺が先に着いており、苗字はいつも5分ほど前に来た。しかし、今日は彼女の方が早く、切符を二枚手にスマホをいじりながら待っていた。もしかすると着くまで秘密にしたいため、切符を自分で買いたかったのかもしれない。お金はいくらかと聞くと後でいいと言われたので俺は財布をしまった。
 降車駅は鎌倉であった。苗字と俺の趣味が一致する場所がそこにあるとは思えず、俺は苗字の隣を歩きながら一人頭を捻らせていた。
 そうして、着いた場所は鎌倉文学館。確かに俺は今週からここで開催される特別展に興味があった。だが、苗字が文学に関心があるなどというデータは皆無で、俺は説明を求めようと苗字に顔を向けた。すると、先に彼女が口を開いた。

「ちょっと待ってて!」

 そう言って走り出して文学館の中へと入って行った。少しして戻ってきた苗字はチケットを二枚持っており、こちらに差し出してきた。もしかして、とここでようやく推測がたったので俺は問う。

「なんだ?早い誕生日プレゼントか何かか?」
「いや、こないだの勉強のお礼のつもり。だから切符代もいらないから」
「勉強を教えた程度でここまでのお礼をもらうのは想定外なんだが」
「いや、なんかお母さんにお礼しろって言われたし、お母さんもこれでいいんじゃないって言ったから」
「ほう、てっきりこのあいだ精市に俺の誕生日を聞き出していたのかと思っていたのだが、このお礼のための情報を集めていたのだな」

 正解、と微笑んだ苗字は歩み出した。俺は文学館の入り口に向かいながら密かに動揺していた。予想外なこともあるものだ、と。
 それから苗字は俺の後に着いてきながら見学していた。「あっこの人知ってる」とか「へえー変な人だったんだね」と感想を漏らしていた。

 文学館から出ると苗字は「楽しめた?」と聞いてきた。もともと来たいと思っていたし、展示内容にも満足できたので俺は首を縦に振った。

「ああ。今日はありがとう」

 素直に感謝の念を伝えれば予想通り間抜けな顔して苗字は驚いていた。

「そ、そう。まあ勉強のお礼のつもりだし」
「苗字がこんなお礼ができるとは思っていなかった。データを更新してやろう」
「うるさ!失礼だね。べつに更新していらないもん」
「なら苗字はまともにお礼できない人間というデータのままでいいのか?」
「それもそれで嫌かな」

 なんて会話しながら俺たちは昼食を取るべく食事屋に向かった。せっかく鎌倉に訪れたので近くで食事することにした。帰るまでは俺の希望に沿ってくれるらしく、和食屋になった。

「ねえねえ、最近ネットで流行ってる“じゅえる少女”って知ってる?」
「ああ、宝石を魔法少女に擬人化したオンライゲームだろう」
「そうそう!やり始めたんだけど、この子絶対、柳くん好きそうだなって思うの」

 スマホをぽちぽちと操作し、その子であろう画像を見せてきた。アメジストの大きな髪飾りでポニーテールにしており、和服にフリルをつけた服を着ている。確かに可愛い。

「悪くないな」
「この子ね、次のイベントに登場する期間限定キャラクターなの。で、声優が櫻子ちゃんと同じ!」
「ほう、期待できそうだ」
「櫻子ちゃんの声が好きって言ってたし。やるなら今だよ!」
「それはやれと言っているのか?」
「だって、柳くんもやったら一緒に話ができるじゃん?」

 にっこりと可愛い顔で男を落とせそうなことをしれっと言う。苗字に自覚はないのだろうが。
 苗字はあまり男子と話さない。俺みたいに接点があるか、用事がある時にしか会話していない。よく話すことになればモテそうなやつだな、と思う。


 それから俺たちは食事を済ませて苗字の家に向かった。当初の“目的”に移るためだ。
家の人たちは兄以外出払っているらしい。俺は持ってきていた菓子折りとセーラー服が入った服を苗字に渡して、先に部屋に入った。
 物色したらまたあいつは怒るだろうが、データ収集するのにこんなにも絶好な機会というのも少ない。今日とて机の中を漁る。「自宅用・立海テニス部イチャイチャノート2」が新しく追加されていたので開く。球技会の一見で仁王×俺を書いてやがる。しかも、あの時の模写だけにとどまらず、あの状況から勝手に自己展開させて漫画にしている。

 次のページを開くと “柳生×仁王” であった。柳生が漫画の中で“似非紳士”呼ばわりされている。本性を知らない苗字でも彼の“紳士”は疑われるのだな。U17合宿での試合で仁王が逆に騙されていたなどと知ったら苗字はたいへん喜ぶのだろう。と苗字の思考が最近分かってきてしまい、少し複雑な気分である。

 少しすると苗字はセーラー服姿でお茶とお菓子を運んできた。

 可 愛 い じ ゃ な い か 。

 思わず見惚れてしまった。まじまじ見ていると睨まれる。

「なに?ってゆーか絶対机の中のノート見たでしょ!」
「どうだろうな」
「仁柳を追加してやりましたよーだ」
「ああ、知っている」
「ほら!!」

 可愛い顔でわあわあと言っている。本当に可愛いな。やっぱり苗字はセーラー服が似合うな。ポニーテールじゃなくとも彼女の顔は好みだからか、セーラー服を来ているだけでもグッとくるものがある。もちろんポニーテールの方が好みなので是非とも早くポニーテールになってもらいたいが。
 それにしたってセーラー服姿は本当に可愛いな。

 ん?キャラが違うなどといった意見は受け入れないぞ。

 ひとまずスカーフが結べないのか、だらしなく垂れ下がっているだけなので俺は結んでやることにする。

「ええー……やっぱり柳くんってコレ結べるんだ……きもい」
「結べて当然だ」
「いやいや、いつそんなこと覚えるの!?」
「これはもともと姉の制服なんだ」
「それびみょーに関係なくない!?っていうか、あーー!思い出したこれってあの頭いい女子校の制服だ!どっかで見たことある気がしてたんだよね」

 なるほどという風に手をポンっと叩いている。
 できたぞ、と言えばスカーフを見て「おお」と苗字は声を漏らした。

「やっぱりこうなるだけで一気にセーラー感増すね!」
「そうだな、可愛いぞ」
「はいはい、ってか私まだポニーテールじゃないんだけど?」
「何度も言っているが、ポニーテールじゃなくとも好みの顔ならば可愛いと感じる」

 褒めてやっているというのに苗字は苦笑を浮かべて「何でこんな顔が……」と呟いている。
好みにもよるが大抵の男は苗字の顔を可愛いと思うのだがな。少なくとも丸井や赤也などテニス部の面々は顔を褒めていた。まあ、そんなことを教えるよりもBLのネタになるようなことを提供した方が、コイツは赤い顔で喜ぶのであろうな。

******
あとがき
柳さん視点だと地の文が多くなるしコメディ目指してるのにテンポ悪い〜;;
(~20180630)執筆

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