揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

自分だけズルすぎませんか?


 翌日、お母さんに頼んで高い位置でポニーテールをしてもらった。頭が重い。肩が凝りそうだ。さっそくほどきたい気持ちでいっぱいだが、我慢して学校に向かう。今日の役員会議は昨日よりは遅く、8時に集合だ。
 今朝の会議は運動場の本部で行うらしい。私はそちらに着いてすぐ、柳くんの元へ行った。

「ちゃんと結っているではないか」

 挨拶もすっ飛ばして嬉しげに微笑む柳蓮二。きもい。今、絶対にいつもの光みたいな顔していた自信ある。

「とりあえず、これ」

 ひとまず、今は体操服の上着を返す。ポニーテールのお礼のことを考えると、素直にありがとうなんて言いたくないけど、言わないのも如何なものかと思うので感謝の念を伝えた。ありがとう、と。そして一言付け加えた。

「これから柳くんに何かしてもらいそうになったら、絶対にお返しを確認するよ」
「それは残念だ」
「そうですか」

 それから私たちは体育委員長がやってきたので話を聞く姿勢に入ったのだった。
 ちなみに私は、午前中に試合があるので役員の仕事はない。午後からは体育館内での仕事で、試合後に結果を紙にメモする係だ。今日は外に出ることもなく楽そうなので気分も軽い。
 会議が終わり、私は着替えるために体育館へ向かおうとしたが、昇降口のあたりで柳くんの手にカメラがあることに気づいて、つい私は彼を引き止めていた。

「え、まって、柳くんってカメラ担当だっけ?」
「ふっ、任されたんだ」

 ご満悦そうに柳くんは答える。怪しすぎる。

「場所はサッカー?野球?」
「ドッジボールだが?」
「まじかよ……あっ私のこと撮らないでね」
「それは約束できないな」

 柳くんが態とらしい笑みを浮かべている。絶対、こいつどうにかしてポニーテール女子の写真をもらう気だ。柳くんたちの写真はまだ残っているとはいえ、画質が綺麗なものは消してやったのに!柳くんずるい!!

「もらっちゃダメだからね!」
「それもどうだろうな」
「やっぱりずるい!そうだ、任されたんでしょ?なら他の人に頼んであげるし元々の仕事しなよ?」

 私はカメラに手を伸ばす。しかし、すっと避けられてしまう。

「当たっていた仕事はすぐに終わる。だから大丈夫だ」
「柳くんにカメラは任せられないから、ほら貸して!」

 ジャンプしても届かないと思い、両手で柳くんの右手を掴んで腕を下ろさせようとするがビクともしない。

「わーたーしーなーさーい!」
「断る」
「ずるいもん!」
「まだ俺が写真をもらうと決まったわけではないだろう」

 なんて言い合いをしていたら仁王くんが登校してきた。私たちを見るなりらからかうような表情で言葉をかけてきた。

「今日も朝から“仲良しさん”じゃのう」
「違うのこれには訳があって!」

 そう口にしながら仁王くんに視線をやれば、その隙に柳くんは腕を振り払った。そのせいで私はよろめいて転びそうになる。

「わっ!」

 だが、とっさに仁王くんが支えてくれたおかげで私はなんとか転けずにすむ。顔を上げれば目の前にはもちろん仁王くん。
 ああ〜やっぱり間近で見てもかっこいいな〜!さすが騒がれるほどのイケメンは違うなあ〜!なんて思いが巡ったけど、すぐに距離を置いてお礼を言った。

「ありがとう、仁王くん」

 仁王くんは私を見ながら返事がてら首を振ったあと、少しむっとしている柳くんの方を向いた。

「女の子に乱暴はいかんぜよ、参謀」

 柳くんは口を結んでいる。何なんだこの空気は。
 私は二人の顔を交互に見ながら、彼らは一体なにを考えているんだろうという疑問を持った。すると、柳くんがようやく口を開いた。

「苗字など“女の子”と呼べたもんじゃないぞ」
「はい?」
「耳が遠いのか?苗字が女の子だとは思えんと言っている」
「聞こえてたよ!繰り返さなくていいから!」

 っていうか柳くんが誰かの前で私をひどく言うなんて珍しい。そんだけ仁王くんの前では素ってこと?なにそれやっぱり“仁柳”なの?そうなの?
 なんて考えたら口元が緩みそうになった。柳くんにバレる前に退散しよう。

「あっ!おはようー!」

 ちょうどよくクラスの友達が通りかかったので私は挨拶をしながらその子のもとへ駆け寄る。そのまま私たちは一緒に体育館に着替えに行った。


 それからSHRも終わって、試合も目前となった。運動は大して得意じゃないし好きじゃない。柳くんはコートの外でカメラ構えているしますます乗り気じゃない。試合終わったらどうにかあのカメラ回収できないかな、なんてあの変態糸目を眺めながら思う。その間に笛の音は響き、試合は開始していた。
 ドッジボールはキャッチして投げられる人は真ん中でボール取りに勤しみ、他は後ろの隅に固まってそこをやられるゲーム、だと私は思っている。もちろん私は固まる組だ。いつも巻き込まれつつ当てられて外野にそそくさと逃げてあとは見学している。
 しかし、今日は運が良いのやら悪いのやら終盤まで残ってしまった。外野に移ってしまった投げられる組の子に「内野、ボール取ってー!」なんて叫ばれているけど無理無理無理。あんな速いボール取れるわけないじゃん。しかも、周りに人が減ってここぞとばかりに写真撮られている気がするし、マジでドッジボール辞めたい。自然と当たるなんて真似を私ができるわけもなく、避け続けた。

 ふと、私は柳くんがどさくさに紛れてスマホで写真を撮っている姿を見つけてしまって、ついそちらに意識がいった。その瞬間に私の目の前までやって来るボール。しゃがもうとするが、ワンテンポ遅い。気づけば私の顔面にボールはクリティカルヒット。
 痛い……柳くんに叩かれるより痛い。

「大丈夫?ごめん!」

 と両手を合わせて謝られる。まあよそ見していた私が悪いので彼女を責めることはできない。私は顔を抑えながら大丈夫だと言った。
 それから、顔はノーカウントなので私は内野に残る。私が顔面にボールを受けたおかげで、ボールはこちらの手に渡った。私は出来るだけ高くボールを投げて外野に届けた。そのボールで我がクラス随一のアタッカーが内野に戻ってくる。そのため、私たちのクラスは反撃して勝利することができたのであった。

 試合後、クラスの派手な女の子たちから「痛かっただろうけど、苗字さんのおかげだね」「ありがとう」なんて感謝される羽目になり、複雑な気分になるのである。私は「ははは」なんて苦笑を返すことしかできなかった。

「苗字、お疲れ様……フ、フフッ……」
「なに笑ってんのよ」
「鼻が赤いぞ」
「心配しろ!」

 本当に柳くんってひどい人間だ。人が顔面にボールを食らっているというのに笑うなんて。すると、カメラを操作したかと思えばこちらに見せてきた。私が顔面にボールを受けた瞬間の写真が収められている。よくもまあ、こんなぴったりなタイミングで撮れたものだ。

「消して。ついでにスマホで撮ったのも」
「断る」
「私、柳くんの画像消したよねえ?ドライブからも消したよねえ?」
「それとこれとは関係ないだろう」
「あるよ!」

 詰まるところ、カメラからもスマホからも写真は消せなかったわけだ。
 私だって柳くんが仁王くんに押し倒された写真、スマホで撮りたかったんだけど……。テニス部の練習見ている途中にまた事故で柳くんが押し倒されたりしないかな?なんて一縷の可能性しかなさそうな希望を抱いてみる。

(~20180605)執筆

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