揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

相変わらず、ひどいやつです。


 球技会の会議は長引いてしまい、最終下校時刻まで話し合いが続いた。今回の球技会は工業高校の方とも合同で行うため、5月27日と28日の二日間に渡ってするそうだ。そのため、決め事が多いのだった。とはいえ、以前に配布しておいたアンケートの集計に一番時間がかかったのだが。
 ちなみに競技は、女子はドッジボールとバレーボール、男子はサッカーと野球だ。私と柳くんの担当はサッカーで、自分たちがどちらの試合に出るかはまだわからない。

 会議が終わった後、私は柳くんと一緒に帰っていた。

「担当、外じゃん。やだなあ」
「7月でないだけよかったではないか」
「どっちも嫌だよー。そりゃいつも柳くんは外でテニスしてるから慣れてるかもしれないけど、外なんて極力出たくない引きこもりだからね?」
「俺も日差しは苦手だぞ」

 そうなんだ。って返したと同時に日傘をさして歩いていたところを以前に目撃したのを思い出した。柳くんのこと知れば知るほど女子力高くて萌えるなあ。うふふ。
 ニヤニヤしてしまったので考えていたことが柳くんにバレたのか、じっと見られた。手が飛んでくるんじゃないかって思って柳くんから距離を取ろうとしたその時だった。

「危ないぞ苗字!」
「わっ」

 とつぜん柳くんに腕で引き寄せられた。すぐ後ろを自転車が通り過ぎてゆく。そちらを向けば自転車の人はこちらをチラチラ見ていた。

「えっと、あのー」

 顔を上げれば柳くんも下を向いたので顔が間近にせまった。急なことでびっくりしたからか、なんだか心臓が早い。私がまごまごしていると、柳くんは口を開いた。

「状況を理解していないのか?お前はどうしようもなく馬鹿だな」

 私の体を離しながら柳くんはそんなことを言う。驚いて処理能力が低下しているだけだもん。まだ心臓落ち着かないし。

「びっくりしてたんだもん。ほら、私が自転車の前に出そうになったところを、柳くんが助けてくれたってことでしょ?」
「そうだ。まあ轢かれてもよかったのだが、それだと自転車の方に迷惑が被るからな」

 思わず私は立ち止まった。

 ひどい!あんなに格好いい助け方をしたのにその言葉で台無しだよ!!
 
 少し前を歩く柳くんはひどいことを言った自覚もないかもしれない。なんて野郎だよ。
 私は早歩きで彼を追いながらぶつくさと言葉をたれる。

 そんなこと言わなかったら素直にこの心臓のばくばくが柳くんにときめいたからとか言ってあげてもよかったのになーもうドキドキおさまっちゃったよねえ。

「ま、まあ、とりあえずありがとう。おかげで痛い目にあわなくて済んだよ」
「ふっ感謝するんだな」

 柳くんのその一言で、私はテスト勉強のお礼の件について思い出した。
 文学資料館の特別展に連れてってあげるというお礼はいずれするが、一応、口頭でも感謝の念を伝えることにする。

「あのー柳くん、ついでになんだけど、勉強教えてくれてありがと。嫌だったけど結果良かったし、なんかお母さんたちもすごい喜んでるし……」

 なんだか改めてお礼を言うと俄然と照れ臭くなって柳くんとは逆の方を向く。何でだかかさっきより恥ずかしい。
 髪の毛を指先でいじりながらチラリと柳くんに視線を向ければ、いつか私を褒めたときみたいな笑顔を浮かべていた。

「それは良かった。教えた甲斐があったというものだ」

 柳くんも嬉しいのかな?ってまあそりゃそうか。教えた相手が成果出すってことは自分の成果みたいなもんだもんね。私も褒めてあげようっと。

「説明むっちゃわかりやすかったし、やっぱり柳くんってすごいんだね」
「当然だ。しかし、苗字も基礎がなっているから理解が早かったのだ。中学と高校一年の時は成績優秀だったようだし、それがここにきて役立ったのだろう」

 さらりと同意したことよりも、私が以前は成績良かったことを知っているのに驚いた。なんで知ってるの?おそろしっ……。褒めなきゃよかった。
 私は苦い顔で柳くんを見つめる。

「フッ、何故俺が成績のことを知っているのか?と疑問を抱いているようだな。それは秘密だ」
「ええー……」
「とにかく苗字はやればできるんだ。これからはもっと精進するんだな」
「うーん、遠慮しとく」

 私は日々BL漫画を読んだり描いたり、女の子を愛でたりして、ともかく「オタク業」で忙しいのだ。

「あっ」

 そうだ、BL漫画といえば写真の件だ。私が口を開くと同時に柳くんは「写真の件なんだけど、と苗字は言う」と遮られたので黙った。

「5月30日は部活が休みでな、その日に苗字の家に行こうと思うのだが良いか?」
「いいよ、でもね、その日に行きたいところがあるから付き合ってほしいの。もちろん柳くんも興味があるところだから」
「構わないが、どこなんだ?」
「それは内緒」

 人差し指を唇の前に立てると、柳くんは怪訝な顔をした。
 私はそんな柳くんを横目に鞄を抱え直す。ここで質問責めを食らいたくないので目の前に見えてきた駅まで走ることにしたのだ。

「じゃあ5月30日、この駅に10時集合ね!ばいばい、またね!」

 私は手を振りながら早足にそこを去った。駅に着き、階段を駆け上る。少し走っただけなのに息が上がった。運動不足な証拠だ。

「ふう……」

 内緒にした理由は、私が文学資料館に行こうなんて言ったら「お前は興味ないだろう、いずれ一人で行くから構わない」と却下されそうだったからだ。幸村くんと真田くんにまで聞いたのに実行できなかったなんて嫌だしね。それに、他のお礼を思いつかず結局できなくなって、お母さんに怒られる、なんてことも避けたい。

 私は鎌倉文学館の行き方調べとかないと、なんて思いながらツノッターを開いた。

(~20180502)執筆

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