揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

何だかとても怪しまれています。


 提出物は無事に終わらすことができた。そのうえ、テストの結果がいつもと比べるとだいぶ良かった。嫌々であったが柳くんとの勉強会は功を奏したというわけだ。そのおかげで、また我が家で(主に母)の柳くんの株が上がってしまった。何だか「柳くんはひどいやつ」という私の言い分が一生通らなさそうになってきた。
 そういえば、勉強会のおやつに母が用意した和菓子を柳くんが気に入っていたため、「お礼にそこの和菓子をあげたいわあ」とか言っていた。なんで私じゃなくてお母さんがお礼するんだよ。って突っ込めば「じゃあ名前がちゃんとお礼しなさい、絶対よ」とかいう流れになってしまい、私は渋々お礼を用意することになった。
 母に報告できるお礼じゃないとダメだから、写真やイラストは却下だ。だからって柳くんが喜ぶものはそれ以外知らないので私は困っている。
 本人に欲しいものなんて聞いたってどうせ「俺のデータをお前ごときに(ry」と言われるので柳くんから情報を得ることは不可能だ。

 と、いうことで仲のいい幸村くんと真田くんに聞くことにした。幸村くんのクラスに行けば、ちょうどよく真田くんが来ていた。ラッキー!そう思いながら二人のもとまで歩み寄った。
 テニス部の面子は一方的に見ていただけなのでやっぱり緊張する。
 しかも三強のうちの二人だしね!わあああこないだちゃんと見られなかったけどやっぱり幸村くん美人だし、真田くんも大きくて男前〜!やばい!二人ともの写真撮りたい……。
 というのは置いておき、会話を切り出さなければ。

「あの〜」
「苗字さんが直接くるなんて珍しいね。どうしたんだい?」
「む、この間コート横で寝ていたやつではないか」
「そ、そうだよ……すみませんでした。えっと、柳くんのことで質問があって来たんだけど」

 近距離で!神の子と!皇帝と!話している!感激だ〜!

 なんて心のうちだけ興奮爆発させていると幸村くんは優しく私に問いかけた。

「何を聞きたいのかな」
「あのね、柳くんの好きなものっていうか、欲しがってるものが知りたくて」
「なぜ蓮二に直接聞かんのだ?」
「柳くんが教えてくれないの」
「きっと照れ臭いんだよ」

 幸村くんがくすくすと笑った。え?柳くんって照れ臭くて私にデータ教えないの?その話マジだったら超絶萌えるんだけど。やばいやばい柳くん可愛すぎぃっ!幸村くんの冗談でもこの際いいや。ネタとして頂戴します。

「そ、それでね、柳くんの好きなもの知らない?食べ物とか」
「蓮二は特定で好きな食べ物があるわけではなく、なんでも薄味のものを好んでいる」
「え……」

 私は難しい顔をしていたことだろう。ますます何をあげれば良いかわからなくなったからだ。そんな私の心情を幸村くんは察してくれた。

「なんて言われたら困るだろうね。蓮二に何かあげるの?」
「勉強教えてもらったからお礼しようと思って」
「なら、鎌倉文学館に誘うといいよ。今週からそこで特別展があるらしくて、それに行きたがってたから」
「なるほど、確かにそれは名案だ」
「へえ……ありがとう幸村くん!それに真田くんも」

 幸村くんはどういたしまして、と綺麗に微笑んだ。真田くんも礼には及ばんと頷いていた。
 それにしても文学資料館というのは思い浮かばなかったな。やっぱり聞きに来てよかった。また近いうちに写真の件でお休みの日に会うだろうし、その日にでも誘ってみよう。
 じゃあね、と言おうとした矢先に柳くんがやってきた。私と幸村くんたちの顔を交互に見て口を開いた。

「苗字が精市の元へ来るなんてどういう風に吹き回しだ?」
「ふふ、秘密」

 幸村くんはこれ以上聞くな、と言いたげに笑みを浮かべている。無言の圧力……。
 まあ、柳くんのこと聞き出していたなんて知られたら後からどやされそうだし都合がいい。
 柳くんは不満そうに眉を顰めているが幸村くんの前では柳くんも言い返せないのだろう。大人しく黙っていた。

 あぁ……こういうところに幸柳を感じる……よき……。

 うっとりしていたら柳くんがこちらに視線を向けてきたので顔を引き締めた。全くもって幸柳のこととか考えてないです、はい。

「そうだ、苗字さんって最近なんで柳と話してるんだい?俺、興味あるな」

 私は柳くんの顔を見た。柳くんから絶対にああいった関連の話はするんじゃないぞ、というオーラが伝わってくる。

「んーなんかたまたま話すときがあったから流れでよく話しているみたいな?」
「ほう、具体性にかける回答だな。きっかけなどは無かったのか?」
「えっきっかけ?え、えーっと……」

 何にも嘘が思い浮かばなくて、狼狽えてしまう。真田くん、それって天然で質問してきてるよね?私も柳くんもかなり痛いとこ突かれてるよ。うーん、と答えあぐねていると幸村くんが眩しい笑顔で口を開いた。

「蓮二が特定の女子とそんなに話しているのってあまりないから、そのきっかけ知りたいんだよね」

 ああ〜もうそんな顔されたらだんまりとかできないです、柳くん、ギリギリのところまで話させてもらいます。

「なんかね、私が忘れ物して教室に取りに戻ったことがあったんだけど、ちょうど柳くんが帰るところだったから一緒に駅まで帰ったんだ」

 間違ってないし、知られたくないところは完全に伏せられている。別におかしなとこも何にもない。完璧!

「へえ……」

 まってまってなんか怪しまれてない?大丈夫?完璧かどうか不安になってきた。神の子怖い……。

「わ、私、そろそろ教室に戻るね」

 少々、引きつった笑みを浮かべて私は手を振る。柳くんも「俺もそうしよう」と言ったので二人でクラスに向かう。
 教室に着くと、私は思わずため息をついた。

「はあ、なんか緊張した……口滑らさなくてほんとよかった」
「まったくだ。冷や冷やしたぞ」
「私おかしなこと言ってなかったよね?」
「ああ、何ら普通だった。しかし、精市はあまり納得していないようだったな」
「え?やっぱりそうなの?」

 柳くんは険しい表情で頷く。私たちはお互いの顔を見合わせた。多分二人とも幸村くんの顔を思い浮かべているのだろう。
ってかあれ、そういえば、柳くんって用があって幸村くんのところに行ったんじゃなかったのかな。すぐに帰ってきたけどよかったのかなあ……。
 私は不思議に思いながらそのまま柳くんを見つめていた。

(~20180430)執筆

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