揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

最高に幸せな気分です。


 私は晴れ晴れとした空を仰いだ。太陽が運動場をまるで舞台かのように照らしている。

「はあ……」

 今日一日、私はこの運動場で競技の運営スタッフ(雑用)をしなければならない。めんどくささの極みである。あのとき、ぼんやり柳くんを見て考え事さえしていなければ、と思う。
 これからはちゃんと先生の話聞けよ、なんて体育委員長の指示をよそに自分を責めていた。早速、人の話を聞いていないなんて突っ込んだらダメだ。

 そして、コーンを配置していく作業に取り掛かった。周りを見ながらなんとなく置いていく。

「ふぁあ〜」

 学校に着いてからあくびが止まらない。もちろん寝不足だからこんな状態なのだ。今朝はいつもより早く、7時30分に学校に集合しなければならなかった。それなのに、昨日に限って3時過ぎまで起きていた私は寝不足なのである。何をしていたかといえば『ハイスクールガールズ!4』をプレイしていたのだが、推しの子が可愛すぎてCG集めに励んでいたのだ。

「ふぁ〜ああ」

 またあくびが漏れる。すると後ろから何か紙の束のようなもので頭を叩かれた。振り向くと、そこにはやはり柳くんがいた。

「寝ぼけているのか?コーンの配置場所を間違えているぞ」
「ええ?そうなのー?」
「球技会役員の手引きを持っていないのか」
「忘れた」
「はあ……これをやるからやり直せ」

 柳くんは「俺は全て頭に入っている」とかなんとか言って別のところへ行ってしまった。私は目をこすりながら手引きを見た。本当だ間違えてる。思いっきり試合するエリアのど真ん中に置いてた。周りの人にあいつアホだなって思われていたに違いない。
 私はまた口を大きく開けて息を吐いた。

 準備を終えると、教室で朝のSHRを行なった。先生は「まあ頑張れ。うちのクラスなら大丈夫だろう」とか気の抜けた言葉を私たちにかけた。

 そうして試合は始まった。私の役割はコートの周りで校内新聞やらに載せるための写真を撮る係だ。私もテントで見学したいんだけど!!って心の中で憤慨しながらシャターを切る。
 ちなみに応援や見学は全員、テントからしかできない。そのためテニス部やサッカー部のイケメンを目当てに応援しに来た女子たちはみんなテントにいる。なんか体育委員長に不平不満を垂れ流していた女の子もいるけど、ここは暑いよ?ってあの子たちに伝えたい。

「はあ……」

 3試合目が終わり、早くも私の疲労は達していた。体はだるいししんどいし眠いし帰りたい。不満を述べたいのは私の方だ。
 しかも、私が試合に出るのは明日なので、今日はずっとここにいなければならないのだ。流石に長時間、陽の下にいると暑い。寝不足もあって頭がクラクラしてくる。

「苗字」

 名前を呼ばれる。そちらに視線をやれば柳くんがいた。

「水分はちゃんと取っているか?」
「一応は」
「喉が渇いたと感じた時点で体内の水分はすでに不足しているといわれる。だから喉が渇いてから摂取するのではなく、こまめに水分を補給することが大切だ。いいな?」
「んー、柳くん私のこと心配してくれてるの?」

 なんて冗談めかして言えばデコピンされた。思ったより痛い。赤くなってないかな。私は額をさすりながら、柳くんを見上げた。

「ぃ……痛い……」
「お前が倒れたら役員の仕事が増えるだろう。しかもその後の苗字に振られた仕事は誰がすると思っている?」
「同じクラスの体育委員か柳くん?」

 そうだろうな、と嘆息する柳くん。心の底から私によって被る迷惑を避けたいといった感じだ。まあ私も倒れたくないし忠告通りこまめにお茶飲みますよ。

 それから柳くんはこれから試合らしく、うちのクラスが集まる場所へ向かった。何やら、輪の中心で話をしている。きっと試合の作戦のことだろう。柳くんのデータはこんな時にも役立つんだね、さすがすぎてきもい。
 そして相手は仁王くんがいるクラスだった。仁王くんこういうの好きじゃなさそうだしあんまり動かないんだろうなあ、なんて勝手に決めつけていたが、意外にも仁王くんは自ら動いていた。というか柳くんに突っかかっていた。
 そんな彼らに向けて達人VS詐欺師だーって歓声が起こる。

 一方で私の頭といえば
「俺のペテンでお前さんをかき乱してやるぜよ」
「くっ、仁王に一本取られるとはな……」
 なーんて、もはやVSではなく“仁王くん×柳くん”に近い妄想が繰り広げられていた。

 それから数分後のことだった。仁王くんがボールを取ろうとしたときに、柳くんの足に絡まってしまい、二人が転倒してしまった。

「え、う、うそ……」

 私は思わず手で口を覆った。

 まってまってまって柳くんが押し倒されてる!!!!!!(※柳くんが下敷きの状態でこけただけ)
 ほんと待ってやばいってやばいって仁王くんが上に乗っかってるよ!??!!え、むりむりほんと鼻血出そう。萌え死ぬ。


 あ!写真!こんな時こその写真!!

 カシャ、カシャカシャッ。

 へへっ撮っちゃった〜うへへへへ〜柳くんの驚いた顔、可愛すぎだし、むり。息が詰まりそう。むり。やばすぎて語彙力と文章力崩壊する。ああ〜役員やっててよかった。こんなに間近で柳くんが仁王くんに押し倒される(※柳くんが下敷きの……ry)ところを目撃できるなんて!しかも写真も撮れてしまった……最高に幸せ……仁柳もよき……。

 とまあ、私が悶えている間に試合は続行していたので、すぐさま“みんな”の写真撮影に戻った。しかし、思考は全く別のことについて考えていた。写真を残すための計画についてである。

 えっと、試合が終わってもすぐに柳くんは私のもとに来られないだろうから、すぐに私はトイレに行く振りをしてここから立ち去るらなくちゃ。……あ、そうだ、来られたら困るから念のために校舎の方まで向かおっと。うーん、次の試合までには10分しかないけど、何とか頑張るかー……。ってか、パソコンがないんだよね。仕方ないけどこのカメラの画像自体をスマホで撮るしかないかな。まあ画質がかなり劣るが残せるだけラッキーだと思おうっと。

 ピピーッ。
 終了の笛が鳴った。私は近くの役員の人に「お手洗いに行ってきます」と伝えて全速力で走り出した。柳くんはまだ来ていない。よしっ。

「はあ、はあ、はあ……」

 寝不足と暑さで体力はすでにないのに思いっきり走ってしまった。倒れるんじゃないかってくらいしんどい。私は肩を上下させながら女子トイレに入った。

「えへへへ、写真♪写真♪」

 カシャ。トイレにシャター音が響く。同じような写真を3枚ほど撮ったが全てスマホに収めておく。へへへ。そうだ、このスマホから消されることも考慮してネットワークドライブにも保存しておこう。あとは信頼なる友人にも送って保存しといてもらおう。普段あまり使わないほうのメッセージアプリで送信する。これでよし。友達は今体育館にいるはずなのでこのことは知らない。
 スマホからピロンと通知音が鳴った。

『何これwwwwwwやるじゃんwwww』

 私もすぐさま返事をする。

『いいでしょwwwwまじで幸せ♥ ♥ ♥あ、悪いんだけどこれ保存しといてくれる?あとバレたくないからトーク履歴消すわ。ごめん』

 すると『りょ!』って返ってくる。私はその子との会話ボックスを左にスライドさせ「削除」ボタンを押した。
 そして再度、カメラで写真を見た。ああ〜何回見ても萌え禿げる……。

 っていうかあと3分しかないじゃん!
 私は走って運動場まで向かう。運動場に着くと、柳くんの姿は見当たらなかった。てっきりすぐに私の元に来るかと思ったけど、私の杞憂だったのかな?もしかして撮られたことに気付いていない?まさかねえ……。

(~20180510)執筆

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