揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

恋人にはなりたくないです


 テスト勉強?何それおいしいの?みたいな私(これでも一年の時は成績が良かった)はただいま猛スピードで提出物を終わらしている。これこそ提出物がギリギリで自主勉強なんか一切やらない典型的なアホだ。
 しかも提出物の課題は自分で解かない。解答冊子を見ながらところどころは写して、赤ペンで丸する。そのあとは一部それらしいことを書いて赤ペンで正しい解答を書いておく。これでやったフリをした提出物の完成だ。

「あああめんどくさいめんどくさい……」

 5月14日金曜日、テストまであと3日。SHR前の空き時間に私は自分の席でぶつくさ文句を垂れ流しながらその作業をしていた。現時点で課題はあと半分残っている。間に合わなさそうな時はこうして学校でもやっているのだ。
 シャシャシャシャッ。ペンが紙上を素早く滑る。次のページに移ろうとしたときに柳蓮二はやってきた。

「何をしている」

 挨拶もなしにそんなことを無表情で言ってきた彼を私は見る。そんなことに答えている暇はないのに、何なんだ!って気持ちで答えた。

「何ってどっからどう見ても提出物を片付けてるんじゃん」
「苗字はいつもそうして自分で解かずに 、答えを写しているだけなのか?」
「そうだけど」

 そう言った瞬間に柳くんの目がカッと大きく開かれた。怖い怖い怖い。教室で開眼するとか珍しいですね。……え、そんなことより全然閉じる気配ないし怖いって。

「な、なによ」

 お前は正真正銘の阿呆だなとでも言いたげに、柳くんの軽蔑を含んだ視線が私を射抜く。私の席は窓側で、柳くんはみんながいる方には背を向けているので私にしかこの状況はわからなかった。

「あのー……柳くん?」
「来い」

 それから私はいつもの場所に連れられてみっちりお叱りを受けた。何で怒られなきゃならないんだろう?と叱られたあとでも理解していない私を見て柳くんは大きなため息をついた。

「その頭をもう一度強く叩いて、お前の馬鹿がなおればいいのにな」
「人の頭を昔の家電みたいにするな。っていうか柳くんが私の頭を何度も何度も叩くから馬鹿が進行したんだよ」

 パシッと私の頭に衝撃が加わる。言ったそばから叩くなんて柳くんは本当に乱暴だな!自分で頭をよしよしすればきつく睨まれた。

「自分の知能の低さを俺のせいにするな」

 ええ、あながち間違ってないと思うんだけどなあ。叩かれすぎて馬鹿がましたという説……。
 また自分で頭をさすっていると柳くんは「はあ」と息を吐きながら腕を組んで言った。


「明日、お前の家に行って勉強が何たるかをみっちり指導してやろう」
「絶対嫌だ。っていうかそれ柳くんにメリットないじゃん。教えてもらったって何にもあげないよ」

 すると柳くんは腕を組み、薄く目を開いて私を見下ろした。

俺と話すからには知能指数をせめて平均レベルまであげろということだ」

 無茶苦茶だな!っていうか柳くんの友達でいるのにそんな努力が必要なんですか、大変ですねえ……(他人事じゃない)。
 もはや恋人だったら柳くんと同等の頭脳を有さなくちゃならないの?恋人になりたくない男ナンバーワンじゃん……。

「私の家知らないでしょ?口が裂けても言いませーん」
「今は把握していないが、知る手段が俺にはある」
「はあ!?何で」

 何であろうな、とか怪しい笑みを浮かべる柳くんは本当に恐ろしい。友達に聞くつもりか?それとも……?と考えていたら柳くんは「では、明日の10時に行くからな」という言葉を残して去ってしまった。
 背中をじっと眺めながら呆然としていたら朝のチャイムが鳴った。やばい、教室戻らなきゃ!
 私は慌てて走り出した。


 翌日、柳くんは本当に来た。柳くんが来るってなったせいで部屋を片付ける羽目になり、私の時間はますます彼のせいで無くなった。勉強教えてもらわなくていいから私に提出物のための時間をください。

 ふぁ〜と大きなあくびをしている間に柳くんはお母さんに菓子折りを渡しながら挨拶している。
 いつも世話になってるだの、今日もまた愛想良くしていい子ぶってやがる。お母さーん、その人はあなたの大事な娘に日々、暴言暴力を振りかざしている野郎ですよ。なんて言っても絶対に信じてもらえない。

 柳くんを二階の自室に案内した。そのへんに座っといてと伝えて私は一階に降りる。お母さんが上機嫌な様子でお茶を用意していた。

「柳くんって素敵な彼じゃなーい。背が高くて綺麗な顔立ちで、礼儀も良いしお母さんは大満足よ」
「昨日も言ったけど彼氏じゃないからね?友達だよ」
「彼氏にするならお母さんは大賛成よ〜」
「柳くんが恋人なんて絶対やだよ」

 しかめっ面しながらお茶が乗ったお盆をお母さんから受け取る。リビングから出ようとした時に「素直じゃないんだからあ」という言葉が聞こえてきたけど、心の底から柳くんと恋人になるのはお断りしたいです。柳くんだって私みたいなやつ願い下げだろう。

 部屋に戻ると、勝手に人の机を荒らしてやがった。こらこら何してるんですか!さっきの礼儀正しい姿はどこに消えたんですか!
 しかも「自宅用・立海テニス部イチャイチャノート」を見てやがる。

「もー何してるの!いくら柳くんでも怒るよ 」

 私は柳くんが持つノートに手を伸ばすがさっと避けられてしまう。そして驚きと嬉しさが入り混じったような顔で言った。

「俺の“攻め”があるではないか」
「え?」
「相手は赤也か……ほう」

 なんか自分のBL漫画をじっくり読むやつを目にするって複雑な気分……。そんなことより柳くんがちょっと嬉しそうにしてるのは「攻め」のポジションもあると知ったから?確かに柳くんに中身を全て見られたノートは、彼は「受け」しかなかったような気がするけど……。

「確認だが、これは今年の4月27日だな?」

 おそらく描いた日付のことだろう。私はいつもイラストなり漫画なりを描いたら下に日付を入れるのだ。赤柳の漫画は最近書いた覚えがあるので私は首を縦に振った。

「ということは俺たちが互いに秘密を知った後だな」
「それがどうかしたの?」
「攻めも描いたということは俺の印象が少しだが変わったということだろう?」

 それで嬉しそうな反応をしていたのだと合点が行く。まあそうなんじゃない、と軽く答えておいた。
 それから、ぼちぼちでノートを閉じて柳くんは座った。勉強を始めるかと思いきや自分のノートを開いてメモしている。
先程のことに違いない。
 私はその姿を見ながらそんなに受けのポジション嫌なのかなあだとか、あんな横暴でドSな一面あるって知ったら多少なりと描きたくもなるよねえだとか色々思いをめぐらしていた。

******
あとがき
 勉強会を書くのが好きです。どの長編にも一回は出てきてる気がする……。
(~20180409)執筆

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