揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

こんな機会は滅多にありません。


 帰宅してすぐに私は自分の部屋に置いてある「自宅用・立海テニス部イチャイチャノート」を開いた。そして幸柳のページを見た。
 やはり、私が描いた柳くんは細すぎる。実際の体格とは差があるように思った。

 私は掴んだ腕の感触を思い出す。私の腕なんかよりも大分がっしりと太かった。とはいっても、それは筋肉という厚みだ。私は自分の右手で左腕を握る。女の柔らかさがそこにはあった。だが、柳くんは間違いなく「男」の体だった。
 私は柳くんの体をもっと観察したいと思った。さっそく明日申し出よう。それで私がポニーテールをして写真の一枚や二枚、撮られることは辞さない。等価対価として十分だ。どうせなら私も半裸くらいの写真くれ。なんて言ったら軽蔑の目を向けられるかもしれない。

 私は昨日プレイできなかった『ハイスクスールガールズ!4』をお兄ちゃんの部屋から勝手に拝借してパソコンにインストールする。そして、インストールが完了するのを待っている間に付属していた取説のキャラ紹介を読んでいた。
『花京院櫻子 三年。由緒ある華道の家元で、家ではかなり厳しく育てられている。櫻子はそんな生活に不満があり、内緒で禁止されている場所に遊びに行ったり、メイドカフェでバイトしていたりする。メイド服を着れば違う自分になれた気分を味わえるのが嬉しいらしい』

「メイド服ねえ……」

 私はふと柳くんから送られてきた画像を思い出した。メイド服着ていた理由はこれかと一人納得する。そんなことより、柳くんが櫻子ちゃんを好きになったことでメイド服まで着ることを強制されませんように。なんて真剣に心の中で祈っておいた。

 そして、私はペラペラと紙をめくりながら他の子も眺める。

「わあ〜この子かわいいー!!」

 目に付いたのはふわふわのブロンドの髪をツインテールにした一年生の子だった。ちなみに私はツインテールが好きで、3のときも黒髪ツインテールの子がお気に入りだった。柳くんから言わせてみればツインテールは「邪道」だそうだ。ポニーテールが「王道」と主張されるのはわからなくないけど、ツインテールを「邪道」呼ばわりされるのは癪に触る。
 まあ、ツインテールの可愛さが分からないなんて柳くんもまだまだだなあ、って馬鹿にしておいた。だってツインテールほどかわいい髪型がこの世にあるだろうか? 否、ない。(柳くんの真似のつもり)

 それから数分後にインストールは終了した。私はツインテールの子からやりたかったけど、仕方なく櫻子ちゃんを攻略することにした。櫻子ちゃんの好感度が上がるように選択肢を選んでいく。
 私は結局、その日徹夜でゲームをした。櫻子ちゃんのルートは終わった。

 翌日、というかゲームが終わった後、私は寝たら絶対に学校に行けないと思って朝早くに学校へ向かった。到着したのは7時過ぎで、誰もいないだろうと思っていたらテニス部が来ていた。そういえばテニス部ってこんな早くから練習していたなあ。さすがだなあ。なんて寝ぼけながら私は見学していた。今の時間、校舎が開いているかは分からないし、確認しに行って開いてなかった場合を考えればここにいるほうがいいと思った。

 立っているのが辛くなって、テニスコート横の芝生に腰を下ろす。眠気という重みが肩にのしかかった。そして、次第に私の頭はかくんかくんと揺れ始めた。眠い。眠すぎる。こんなところで寝るなんてだめ……。


 誰かに肩を叩かれた。

「苗字さん、苗字さん」

 聞きなれない声が私を呼ぶ。この声は誰だろう。私はうっすらと目を開いた。

「苗字さん、起きた?」

 私の顔をしゃがんで覗き込んでいたのは生徒会長の片倉くんだった。私はびっくりして目を見張る。そしてきょろきょろと辺りを見渡せば何人かは私たちのことを眺めていて、テニスコートの横を通り過ぎる人もこちらを一瞥して行った。

「あ、えっと、片倉くん。その、起こしてくれてありがとう……」

 恥ずかしくなって俯いていたら頭上から声が飛んできた。

「おはよう。こんなところで寝るやつは苗字しかいないぞ」

 見上げれば、立海テニス部のジャージを着た柳くんがいた。続いて真田くんや仁王くんたちもぞろぞろと集まって来た。
 テニスコートの横まで来て寝るやつの顔を拝みに来たとでもいうのか、ジロジロと私を見ている。そして、最後に幸村くんが私の前に姿を現した。

うわああ神の子がおいでになられたああ威圧感がハンパねえ。

 私は突然、緊張してしまって体を強張らせた。

「ふふ、おはよう。苗字さんだっけ?」
「お、おはようございます……」
「俺たちを見るためにテニスコート横に来る女子はいっぱいいるけど、眠り出す子は初めてだよ」

 私は責められているんだか何なのか分からなくて思わず謝ってしまった。

「す、すみません……」
「いや、怒ってるわけじゃないから謝らないでいいよ」

 にっこりと優しく微笑んだ幸村くんは天使みたいに可愛かったけど、こんなときにも「きっとあの笑顔の裏は腹黒くてドSに違いない」だとか思っている私は正真正銘の腐女子というか、変態だ。

 それから柳くんや幸村くんたちは着替えに行くために部室棟の海林館に行ってしまった。私は片倉くんにもう一度、お礼の言葉を伝えながら会釈してその場を後にした。

 眠気と体のだるさでフラフラになりながら教室に戻る。歩きながら、私は先ほどの光景を思い出して肩を落としていた。
 はあ〜いつも遠くで見ていた“彼ら”があんなに近くにいるなんて……あんな機会滅多にないのに……私の方こそもっと観察しておけばよかった……。
頭の中は後悔でいっぱいである。というのも、私は中学の時から今にかけて、かなり一方的に「中3時代のレギュラー」を見ているわけだ。それはもちろんBL漫画を描くためという不純な理由なんだけれど……。とにかく、彼らをテニスコート横から遠目でしか見られなかった。そう、今までも。
 な!の!に!私はあんな機会をもってしても全然観察ができなかった。くやしいいい。
教室について机にうつ伏せになって落胆していたら、また気付かぬうちに寝ていた。

******
あとがき
ポニーテールVSツインテ―ルな二人です。どちらにもどちらともの良さがありますね。
(~20180406)執筆

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