揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

外面だけ良すぎます。


 次の日、下駄箱を開けるとそこには一枚の紙があった。縦書きで「昼休み、弁当を持って生徒会室へ来い」と綺麗な字で書かれている。名前は記されていないが、こんな上から目線な文章を書くやつは柳蓮二しかいない。私は確信を持ってそう言える。
 っていうかどうしてメッセージで送らないの? という疑問を抱いた瞬間に未読無視したまま返事していないことに気付いた。うわあ……これはやばいな……やっぱり相当怒ってる?
 まあ、未読無視は私が悪いと認めよう。だがしかし、ゲームをしなかったことは私が責められることでもないし、怒られる筋合いもないと思うんだ。何というか、柳くんは私のこと奴隷とか僕とかと勘違いしているの? もしも「勘違いじゃなくてそう思っている」だなんて口にするものなら怒る。というよりも言い出しそうだからムカつく。
 教室で一人ぷんすかしながらメモを見返していたら友達に声をかけられた。

「おはよう、名前。なんで朝っぱらからそんなに顰めっ面してるのよ」
「これ見て」
「……えっ何これ。名乗りもしないで命令口調なんて失礼な人。そんなの無視しときなよ」

 友達もこんな手紙にはむっとしている。だが、無視なんかしたら私の頭は何発叩かれることになるんだろう。想像しただけで頭が痛くなる。私はため息混じりに、これ絶対柳くんだよと言った。

「え〜?あの柳くんがこんなこと言うわけないじゃん」
「あ、の、ねえ!柳くんは暴言暴力凄まじいから! 私の描いてる可愛い柳くんとかテニス部の三強、達人、参謀ってイメージしかないでしょ? 全然違う。騙されちゃダメだよ」
「うーん、そんなこと言われても私はひどい柳くんを一目だって見たわけじゃないし……」

 正論だ。確かに見たことなければあんな姿は想像できないし、永遠に知らないでいるだろう。それに、柳くんは絶対に場所を選んで私に暴言を吐き、暴力振るってるんだから知らなくて当然だ。

「くっそ。柳くんめやっぱりちゃんと考えてやがる……」

 口を尖らせていると、いきなり友達が口を開いた。

「あ、柳くん。おはよう」

 柳くんだって!?
 振り返ると、何だかすごい爽やかな笑みを浮かべる柳くんと目が合う。

「ふっ、おはよう。俺がどうしたんだ?」

 はあーーーあんた私にそんな顔できるんですねー! へえーーーーそうですかーーーーー!! いつもそんなんじゃないよねーーーーー!!! って言ったところでしらばっくれるんだろうな。と考えていたら友達が私の代わりに言ってくれた。

「あのね、名前が柳くんは暴言暴力が凄まじいのなんのって言うのよ」
「俺がか? 苗字はどんな夢を見たんだ? 夢見が悪いのはストレスが溜まっている証拠だとされている。夜更かしをせず、しっかり休養を取れ」

 なんて優しく私の肩をポンっと叩いた柳くんだけど、夢の中でも私にひどいこと多いからそれこそ日々積もる柳くんからのストレスが原因じゃないんですか? って言いたい。でも、私に優しい柳くんなんて貴重だから存分に味わっておこう。

「心配してくれるんだね、お気遣いありがとう。あいにく忙しい身だし、兄と姉や従兄弟、どこぞの“友達”からも毎日ことばの暴力を受けているから休養程度ではどうにかならないかなあ」
「それはかわいそうに」

 私のために眉を下げる彼を本心から心配していると友達は思ってるんだろうけど、私から見たら確信犯の哀れみにしか見えなくて無性に腹が立った。

「口の悪い奴はみんな口にガムテープでも貼っとけって感じだよねー」

 にっこり笑って柳くんに同意を求める。なら、柳くんもにこやかに答えた。

「ではそんなことを言う苗字の口にもガムテープを貼らなくてはいけないな」
「はあっ!?」
「っぷ!……あははは!」

 私の怒りが達すると同時に友達が吹き出して笑っていた。友達もそんなにウケなくていいのに……。

 それから二人とも自分の席に戻った。先生が来て、SHRが始まる。私は先ほどの柳くんを思い出して、また悶々と考えていた。
 友達の前だからおだやかだっただけでやはり内心は超お怒りモードなのだろうか? それにしたって態度が違い過ぎる。いつも私にあんな感じだったらちょっとは男としてかっこいいとか思ってあげてもいいのに、本当に残念な人だ。
 ぼうっと柳くんに視線を向けてそんなことを考えていたら、いきなり先生に名指しで声をかけられた。

「苗字、おい苗字」
「は、はいっ!」
「柳がかっこいいのはわかるが柳ばかり見てないで俺の話を聞いてほしいんだがなあ」
「え、あ、はい」

 条件反射で「はい」なんて反応してしまったけど別にかっこいいと思って柳くん見てたんじゃない。むしろカッコいいと思ってあげるのになって考えてたんだ。なんて言えるわけもなく私はクラスメイトに笑い者にされるのだった。
 そして、柳くんを見れば「ざまあみろ」みたいな顔をしていて今日ばかりは私が彼の頭を叩きたくなった。

「むかつく……」

 小声でそう呟いたと同時に先生がまた私の名を口にした。

「よし、苗字にやってもらおう。話を聞いてなかった罰だ」
「えっ何がですか?」

 もちろん私は何のことかわからない。前の席の子に聞こうとしたら、先生はわざわざ「話を聞いていなかった苗字のために」なんて付け加えて説明してくれた。

 何やら、例年なら七月に行っている球技会を今月末に行うらしく、体育委員だけじゃ運営の人数が足りないから2年のクラスからさらに2人ずつ選出することになったらしい。そこで、私が話を聞いていなかったという理由でその一人に選ばれてしまったようだった。
 ああーちゃんと話聞いとけばよかった。最悪。

「えー……」

 あからさまに不服そうにしているのに先生は私のこと無視して話を進める。

「あともう一人だな。誰かやってくれるやつはいるか?うーん、いないのか。では、柳とかどうだ?」

 なんでそこで柳くんに話振るの!? 断れ断れ断れ。

「いいですよ」

 柳くんは愛想のいい笑みで先生の頼みを承諾した。もうー!そこは「だが断る」でしょーが!! 柳くんだって暇じゃないでしょ。それで後から「お前が俺を見ていたせいで俺まで役員をしなければ行けなくなった」とか責められてもどうしようもないんだからね。
 私は不満いっぱいにため息をつく。一方で柳くんは相変わらずこの中じゃ穏やかな顔をしていた。
 ほんと、外面だけ良すぎない?

******
あとがき
 学校行事も盛り込んでいきたいです。
(~20180401)執筆


prev / next

[TOP]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -