揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

あいつもこいつも残念です。


私は帰宅してまず一番にお兄ちゃんの部屋へ向かった。まだ寝てやがるお兄ちゃんを叩き起こして、お使い代くれなきゃゲーム渡さないから!と駄々をこねてみる。すると、ベッドの脇に放置されていた千円札(しかもくしゃくしゃ)をいただいた。
 千円ゲットだぜ! 私はガッツポーズで自分の部屋に戻る。部屋着に着替えて私はそそくさとベッドに潜る。はあ〜徹夜すると午後がきついんだよね。私は存分に寝るべくスマホもマナーモードにして眠りについた。

 それから起きた、というか起こされたのは4時間後だった。家の電話を持ったお母さんが部屋に入ってきたのである。

「ほら、光くんよ。早く出て上げなさい」
「え、光……? もしもし?」
「何で毎度毎度スマホ携帯してへんねんこのアホ」

 なんか暴言吐かれてる、私?寝起きで全然頭回んなくて、とりあえず寝てたと一言伝えるとまたまたひどい言葉が飛んでくる。

「ほんま名前ってだらしないっちゅうか、女を捨ててるっちゅうか。そりゃ彼氏もできへんわぁ」

 この柳くんばりに暴言が口から出てくる彼は母方の従兄弟で、財前光という。

「彼氏なんていらないし」
「はいはい、負け惜しみやろ」

 キーッ! むかつく! 私は彼氏より目の前にBLが存在するならそれでいいんだからね。っていうか自分だって彼女いないくせにー!

「あのね、さっき寝てたのは誰かさんのせいで徹夜したからなんだよ? 仕方ないでしょ?」
「知ってるわ、ツノッターで呟いてたやん。ギャルゲー買いに行くのに徹夜とかマジでキモいわ」

 光の1日で言う言葉ランキング1位は「キモい」に100票入れたいくらい、キモいって口に出してると思う。少なくとも私にはキモいって言葉を一番使ってる。顔はいいのにそんな口悪かったら女の子にモテないよ? 自分だって彼女できないよ?
 なんて言ったら俺の嫁はミカやとか言いそう……ここにも残念なイケメンがいる……なんて考えていたら私はとあることを思い出した。

「あー! そういえば私ってミカちゃんの絵描くように頼まれてたよね?もしかしてそれ?」
「せやけど? んで、こないだも家に電話したのに送ってこーへんから俺がわざわざまた電話してんねんけど? ほんまいい加減にせなクビにすっから」
「ごめんってば。急いで描くから許して」

 ちなみに何のことかといえば、動画に載せるための絵である。光はトーカロイド・一音(ひとね)ミカを使って曲を作り、ニヤニヤ動画に投稿している。私はよく彼に頼まれて絵を描いているのだが、今回もそのための絵を描く約束をしていたのだ。

「まあ期限守ってへんねんし急げとは言うけどな、せやからってテキトーなもん出さんといてや」
「わかってるわかってる」
「名前アホやし絶対わかってへんわぁ……」
「うっさいな! それくらいわかるよ!」

 散々馬鹿にしやがって! 確かに私は勉強も全然できないし遅刻ばっかりするから学校じゃ問題児に近いけど、それでも柳くんも光も私に悪口言いすぎだと思うよ。


 それから私はまだ眠い頭を起こして絵を描き始めた。今回の曲は「時計」をモチーフにしているらしい。光の汚いラフを見ながら一音ミカちゃんを描いていく。

 一音ミカちゃんは足くらいまである長いピンクの髪をポニーテールにした女の子。確か、柳くんも一音ミカちゃんかわいいって言っていた気がする。
 なんて言うか、もう私の中でポニーテール=柳くんみたいになってきているよね。あの変態さんはきっと今頃『ハイスクールガールズ!4』をプレイしてるのだろう。100%の確率でポニーテールの子から攻略しているに違いない。ちょっとあの子の名前忘れたけど。

 とそんな感じで柳くんのことを考えながら絵を描き進める。最近、柳くんに言われて神崎ちゃんや他のポニーテールの子をよく描いていたから、ポニーテールを描く技術が上がった。私はちょっと楽しい気分になりながらペンを動かした。


 1時間後くらいのことだった。柳くんから二枚の画像と彼にしては長文のメッセージが送られて来た。
 おそらく画像は『ハイスクールガールズ!4』に出てくるポニーテールの女の子である。1枚目は背中を向けて座っており、振り向きながら上目遣いでこちらを見ているという画像。服装はメイド服だ。そして2枚目はプールで遊んでいる画像だった。

 前から思っていたことだが、柳くんはおそらく貧乳が好き。この画像の女の子も神崎ちゃんも、他に聞いた好きなキャラもほとんどがちっちゃい。なぜ好きかはどんな変態発言が飛び出してくるかわかったもんじゃないので理由は聞かないけど。
ともかくメッセージだ。えーっと……。

『こんばんは、苗字。お前はもうゲームを始めたか?おそらく寝ていただろうから、していない前提で話をする。
 画像のキャラクターは「花京院 櫻子」という。以降、櫻子と呼ぶ。言いたいことはまず、櫻子のルートからプレイしろということだ。絶対にやって後悔はしないし、時間を無駄にしたとも思わないだろう。この柳蓮二が保証する。あまり話すとネタバレになるので控えるが、中盤に差し掛かってから発生するイベントは必ずお前の好みにストライクする。
 今回もなかなかよいストーリーであったし、ポニーテールが活かされたCGが多く満足できた。とにかく、早く櫻子のルートをクリアすることだ。お前にはまた櫻子の絵を描いてもらいたいからな』

 なんか柳くん、今回のポニテの子に相当ハマってるね。っていうか櫻子ちゃんを描いて欲しいだけじゃん……。
 私はひとまず「頼まれごとが終わってからやる」と返した。すると、驚くほどすぐに私の携帯はメッセージの通知を受け取った。返事、はやっ!

『起きているなら今すぐやれ』

 無茶苦茶なこと言いやがる。私は用事で忙しいんだ。西の残念なイケメンが現時点でもしびれを切らしているから今日中に描ききりたい。柳くんに怒られるのも嫌だけど光に罵詈雑言を浴びさせられるのもキツイ。
なので、今回はすでに締め切りも過ぎてしまった光を優先します。明日、しばかれる覚悟でメッセージを打つ。

「わりかし、真剣に切羽詰まった用事だから今すぐは本当に無理だよ」

 私は恐る恐る送信ボタンを押す。既読が瞬間でついた。私は慌ててトーク一覧に戻り、メッセージアプリを落とした。なんと言われようとできません。ということで今日はもう返さないでおこう。

 私はもう一度パソコンの画面に向き合った。一音ミカちゃんがポニーテールを揺らしてウインクしていた。


******
あとがき 
 やはり財前はベタにボ◯ロPで書いていこうと思います。ベタな展開、結構好きなんです。そして、財前の口調にめっちゃ違和感あるんやけど。と関西在住の管理人は嘆きます。
(~20180331)執筆

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