揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

考えが全く以てわかりません。


 教室に戻ると、柳くんがこちらをちらりと横目で見た気がしたが、私はそちらを向けなかった。何だか、怖いのだ。そして、自分の机に座る際に柳くんを見たが携帯をいじっていて表情が読み取れなかった。まだ、怒っているのかな。でも、ちゃんと謝ったし、去っていくときはそんなにイライラした雰囲気ではなかったから大丈夫かな。
 そのようなことを考えている内に朝のSHRは終了。次の授業が始まる前の10分休憩のときに携帯を見れば、メールが一件来ていた。学校ではマナーモード(バイブレーション機能もオフ)にしているから気付かなかった。メールを開くと柳くんからだった。

『勘違いしているかもしれないが、苗字とゲームなどの話をしたくないわけではない。ただ、知り合いや友人の前で控えたいだけだ。苗字さえ良ければこれからも趣味の話をしてほしい。』

 柳くんが「してほしい」だと!?あの柳くんが私に頼むなんて、もう4月だけど雪が降ってくるよ!?と、目を見開きながら驚いていたが、最後に付け加えられた言葉にぎょっとして携帯を落としそうになった。

『追伸 苗字はこちらの事情など知りもしないのに、怒ってしまってすまなかった。』

 柳くんに謝られるだなんて、雪どころか刀降ってくるんじゃないの。だってあの柳蓮二だよ。私にいつもひどい言葉吹っ掛けるか、容赦なくバシバシ叩いてくる、彼だよ。
 携帯をポケットにしまいつつ、柳くんのほうに視線をやると目があって、何だか無性に笑いが込み上げてきた。我慢できずに口角を上げると、柳くんもフッと微笑んで、読書をし始めた。
 キツイことばかり言う人じゃないなんて知ったら、憎めるもんも憎めないね。

 私の頬がまた緩んだのを、彼は知らない。

******


「ふぁ〜…。ねえ、いくらなんでも4時間も前から並ぶことないんじゃないの?」

 現在時刻は六時三分。場所は某アニメグッズ商品店の前。神崎ちゃんこと神崎名前がいる例のギャルゲーのナンバリングタイトルが今日発売らしく、何故か私は買い物に付き合わされる羽目になったわけである。

「初回限定版とアニマイト限定特典を手に入れなくてどうする?」
「でも、四時間前って…せめて二時間かな」
「俺のデータ上、このゲームのシリーズは二時間前では手にすら入らない」
「そうですか…。ふぁあ〜ねむいー…。そもそも何で私まで…」
「兄に頼まれたのだろう?ならば来た意味がないとは言えないだろう」

 頼まれたといえば頼まれたが、その言い方だと私が頼まれたから柳くんを誘って四時間前に並んでいる。といった順序にも聞こえませんかね。断じて違うからな!まず、柳くんが私をアニメイトに誘い、四時間も前から並ぶと思っていない私は首を縦に振った。しかし、その直後に集合時間を聞かされて私は断る。そう、断ったというのに、強制的に行くことにされた。そして、渋々了承したことを兄に話せば、お金は渡すからついでに買ってこいとのこと。柳くんといい、お兄ちゃんといい、何なの!どうせお兄ちゃんまだ布団の中でぐっすりってわけでしょ!?おかしいよ!!

「お兄ちゃんなんて滅びろ。それか、このお金を全部コピック代に回してやろうか…」
「それをすれば、おそらく後日、自腹でゲームを買ってこいと言われるな」
「ですよねー…。ってかさ、ゲームってナンバリングタイトルなんでしょ?なら、神崎ちゃんいなくない?」
「大丈夫だ、ポニーテールのキャラは今回もいる」

 ポニーテールなら何でもいいのかよ。何だそりゃ。まあ、柳くんだしね、そう言うとは思っていたけども。
 それからゲームやアニメなどの話をしていたらあっという間というほどすぐではなかったが、案外早くに開店五分前となった。整理券を渡されているので走る必要もなく、あとは五分待ってゲームを買うだけである。何だか今更になってわくわくしてきた。妙に早く、ゲームをプレイしたくなってきた私は、整理券を見つめながらにんまりと笑った。お兄ちゃんに頼んで私からさせてもらおうっと。こんな時間から買いに来てるんだから初めにしてもいいよね。

「うふふ〜楽しみだなあ」
「なんだ、急に。気持ち悪い」
「楽しみなんだよ。ってか、君に気持ち悪いと言われる筋合いはないね」
「いや、ある。そんなにへらへらした顔で横に立たれて、俺が友人と思われることを考えると反吐が出そうだからな」

 えらく汚いものを見るような目を私に向けて言った柳くん。いつにもまして辛辣な言葉であった。やっぱり、柳くんって口悪いよね。絶対そうだよね。周りは信じてくれないけども…。何で私に対してこんなにひどいのか。それでいて嫌われているわけではないのがさらに謎ではあるが。やはり私は彼に嫌われているのかな?いや、こないだのメールの文からしてそれはないかな。ああーもう、わからん!!

「とりあえず、柳くんはその暴言と暴力を何とかしよう」
「とりあえずの意味が分からない。お前の話にはどうしてこうも脈絡がないんだ」

 何だかまた暴言を吐かれた気もするが、店があと数秒で開くようなので私は黙った。柳くんの顔をちらりと見上げてみる。少し微笑んでいるような気がして吹き出しそうになった。きっと柳くんも楽しみなんだろうなあ。まあ、4時間も前から並ぶくらいだしね。そのおかげで私は寝不足どころか、一睡もしないまま来ましたけど。……ふぅ眠たい。

(~20140111)執筆

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