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▼ 変態には用心しましょう。

柳との出会いは階段から落ちた私を受け止めてくれたという何ともロマンチックな…ってふざんけんな!何がロマンチックだ!そりゃあ、足を滑らしてふわっと体が浮いたときはこれはやばいって感じた。あの硬い地面に体を打ち付けると思うとぞっとした。
まあ、それを免れたのは紛れもなく柳のおかげなのだが、少女漫画みたいな「大丈夫かい?」「あ、ありがとうございますぅっ!(わあ、この人超かっこいい…!!)」みたいな展開にはならなかった。それどころか、私にとっては最悪の出会いだった。

そう、あの時のことは忘れもしない。私はわけあって急いでいたので、駆け足で階段を降りていると、足を滑らせた。だが、柳が落ちた私を受け止めてくれたので怪我をせずに済んだ。ここまではいいんだ。ここまでは。受け止めて、柳が何と言ったと思う?

「今日は黄色の花柄か」

だよ。その時は唐突すぎて何のことか分からなかったため、私は「え、何が?」と聞き返した。もちろん柳は何でもないと言ったわけだが、その直後に気づいた。先ほどの発言の意味が。

私の下着の色と柄だ。

吃驚して身を退こうとしたが柳にしっかり腕を掴まれていたので逃げられなかった。変な話だが、助けてもらったのに誰か助けてくれなんてその時に思ったのである。

「ねえ、聞きたいんだけど…」
「なんだ?」
「今日はってどういうこと?」
「どうも何もそのままの意味だが?」

そのままの意味ってそれこそどういう意味?まさかとは思うけど以前にも見たことあるのか?

「いや、毎日チェックしている」
「……!?」

声に出してないのに何で分かるの!?それより毎日とはどういうことですか!?さっきからどうって聞きまくっているけど本当にどういうことですか!?

「え…………」

真剣に開いた口が塞がらない。何で柳が私の下着の色を毎日チェックする必要があるんだ。全然理解できない。柳はそれがどうかしたのか?みたいな顔してるし。とりあえず、私以外の子もチェックしているのか聞いてみた。

「いや、苗字だけだな」
「なんで!?」
「苗字のことを好きだからだ」
「そ、そう…」

突然の告白なんて吃驚するのが普通だろうが、私はひどく冷静に受け止めて、「告白ってドキドキするものじゃないのか」と思った。だって告白っていったら夕日差し込む放課後の教室で…とか昼休みの体育館裏で…とかじゃないの?そして、ドキドキの中「…わ、私も…好き」みたいな雰囲気になるんじゃないの?と、いっても私は柳のこと好きじゃないが。

「…で、でもさ、好きだからってそれとこれとは…」
「好きな人のことは何でも知りたいと思うのは当然のことだと思うが?」

何故かドヤ顔気味に答える柳。確か、誰かのデータ集めるのが得意なんだっけ?だからか?

「いや、それでも、知りたい範囲ってものがあるよね」
「俺はすべて知りたい。目測ではやはり誤差が出るのでな。手始めにスリーサイズを「ふざけんな!この変態!」

鳩尾にパンチを食らわして、全速力で逃げた。あんなのといたら何されるかわからない。それに、急ぎの用があったのをすっかり忘れていたというのもある。とにかく、明日会ったら何を言われるか。
たった一日の数十分で、柳のイメージ、出会いの瞬間や告白に対する印象が一気に覆された。というか粉砕された。柳があんな人だなんて知らなかったし、予想だにしていなかったのだ。

*****

翌日からはもっと大変だった。朝から「今日は青のボーダーである確率が一番高いがどうなんだ?」とか「前髪を数ミリ切ったのか」とかそんな普通なら分からないようなことばっか言われるし、隙あらば腰に手を添えてきたり耳に息吹きかけてきたりしてくるし。せめて、体触ってくるのはやめてくれ。セクハラだよ。

テニス部に関わったらいじめられるって聞いていたけど、今の状況のせいか「苗字さん頑張って」とか変な励ましをされた。いじめられるの嫌だけど頑張ってってかなり他人事じゃないか。柳のこと好きな女子いるならもっとアプローチするか私と柳の間割って入ってよ。困っているんだ。

ああ…そんなこと思っていたら、少し遠いが前方に柳が見える。昼休みにうろうろするんじゃなかった。とりあえず、私は踵を返して走り出した。すると、予想通り追いかけてきた。ちょ、来ないで。来ないで。あんな長身に後を追われたら柳じゃなくとも怖いんだって。

「来るな!この変態!」

後ろを見ながら大声で叫んだ。すると、珍しく柳も声を大きくしてこちらに言葉を投げた。

「変態?人聞きの悪い呼び名はよしてくれ」
「いや、追いかけるのもよしてくれ!!」

それから女子トイレに逃げ込もうと踏んだ私は最短ルートを頭で割り出し、後ろの様子を窺いつつ走った。何でこの学校の廊下、こんな長いの!ってかさっきから周りの応援がひどい。だって「苗字さん頑張って」じゃなくて「柳くん頑張って!苗字さんはすぐそこよ」って柳のほうに声がかかっている。おかしい。午前中まで私を励ましてくれたのはなに?

「もう疲れ…うわぁっ!」

前を向いた途端、視界いっぱいにブレザーの緑色が広がり、そして激突。すみませんと謝りながら顔を上げればそこにいたのは真田弦一郎。やたらでかいと思ったらこいつか。いや、じゃなくて今は逃げなければ。立ちあがったと同時に後ろから声がかけられた。私ではなく真田に。

「弦一郎、その女はたった今廊下を全速力で走っていた校則違反者だ」
「な、なに…!?廊下を走るとはけしからん!」

そう言って前に立ちはだかる。先へは行かせてくれないらしい。右に一歩左に一歩と動いても私について目の前に来やがる。真田を使うなど小癪な!ってか狡いだろ!

「いや、私はね、柳に追っかけられてるだけで…」
「いきなりお前が走るから俺が注意しようと思って追いかけたんだ。騙されるな、弦一郎」
「うむ、分かった」
「ちょ、ちょっと待った。それ、色々おかしいから!絶対注意するためじゃないでしょ…」


そうして柳に連行された私は何故か今、空き教室で向かい合わせに座っている。ノート広げ始めたけど本当にどうして。

「観察したり第三者に聞いたりしてデータ収集するのもいいが、やはり本人に聞きたほうが確実なデータを得られる」

嬉々としてこちらを見る柳が正直気持ち悪い。何をそんなに期待しているのだろう。私が口で説明できることなんてとうに把握しているであろうに。誕生日とか身長とか色々ね。とにもかくにも、さっさと教室に戻りたいので聞きたいことは?と問いかけた。

「まず、初めに正確なスリーサイ「だから、なんで最初の質問がそうなんのよ!まともなこと聞いて」
「そうか、仕方ない。スリーサイズはそのうちにしてやろう」

上から目線なところが気に障るが、眉を下げて残念そうな顔をした柳を見て小さくガッツポーズ。誰が教えてやるか。

「では、他の質問だ。好きなタイプは?」
「変態じゃない人かな」
「俺ではないな」
「いや、柳だよ」

それからもカップは何か、好きなやつはいるか、彼氏ができたら何がしたいかなどの質疑応答(正しくは質問攻め)が続き、予鈴がなったのを境に各自自分のクラスに戻った。終始変なことばかりの質問で、時間にすると15分にも満たないのにどっと疲れた。

*****

柳に付きまとわれるようになってから数日後の夕方。コンビニに行く道中に公園前を通ると、柳がいた。条件反射で走りそうになったが、いつもとは違うその姿を捉えた途端、私の足が止まった。

あんな真剣な姿、初めて見た…。

汗を流しながら一点を見つめ、柳は一向に止めることなくラケットをひたすら振っていた。ボールの跳ねる音がここまで聞こえる。自主練習をしているようだ。部活の練習だけでもかなりの量があるというのに、休日もこうして練習をしているところを見ると、柳の強さの理由が分かった気がする。
私は、テニス部の観戦はしたことがないため詳しく知らないが、柳がレギュラーで三強と呼ばれていることくらい知っているので、強いであろうことは予測できる。

「……熱心だな…」

そう呟きながらぼんやりと見ていたが、コンビニに行く途中だったことを思い出してその場を後にした。


コンビニでは母に頼まれたものとシャーペンの芯とスポーツドリンクを買った。ドリンクは私が飲むためではなく、柳にだ。何故そうしたのかは自分でもよく分からないが、気付けば手にしていた。自分らしくないなどと思いながら先ほどの公園まで歩を進める。

あ、良かった。まだ練習してる。これでいなかったらスポーツドリンクを買った意味がないからね。

近くへ歩いていくと、柳が私に気付いてこちらを向いた。一瞬目を見開いたので、私の登場に些か驚いているみたいだ。こんな行動をとってる私が言えないが、柳らしくない表情である。

「こんにちは、苗字。こんなところでどうした?」

リストバンドをつけている手首で汗を拭いながら、柳は私に問いかけた。いつも涼しげにしているから、汗をかいているのが珍しい気がしてその動作に釘付けされたのは秘密だ。

「…これ、あげる」

買い物袋からドリンクを出して柳の方に投げると、片手でそれをキャッチし、いよいよ驚いたように目を見開いてこちらを見た。

「…スポーツドリンクか。ありがとう。だが、急にどうした?いつもなら俺を視界に少しでも入れただけで逃げるというのに」
「何となく。別に深い意味とかないからね」
「フッ、そうか」

柳は嬉しげに笑みを浮かべてペットボトルを開け、ごくごくとのどを鳴らして飲んでいた。口を離して、再度私に微笑みながらお礼を言った。

それに対し頷きながら柳に背を向ければ、行くのか?と声をかけられた。てっきり止められるかと思っていたので、吃驚しつつ首だけ後ろに回せば「ではな」と言われた。

「うん。…あ、そうだ。柳」
「なんだ?」
「テニスの練習してるとこ初めて見たけど、いつもと全然違うくて驚いた。変態なだけじゃないんだなーって。だから、テニスする柳はちょっといいなって思った」

今日の私は絶対におかしい。何でこんなことまで言ってるんだろう。よくよく考えてみると恥ずかしくなってきて顔を逸らそうとしたが、それよりも柳の表情に目がいった。運動していたからかもしれないが、少し頬を赤くしてはにかむように笑っていた。柳でもああいう笑み浮かべるんだ。

「じゃ、じゃあ、私はこの変で…「待ってくれ、苗字」

足を踏み出そうとすると手を握られた。今、柳の顔を見ると照れてしまいそうなので前を向きながら何?と聞いた。

「俺への印象が少しでも良くなったようで嬉しい」
「そ、そっか」
「それと、私服もよく似合っている。俺としてはもう少しミニスカートのほうが好みだが」

するりと太股を撫でられ、背筋がぞわりと粟立った。何してんのこいつ!

「ちょ、ちょっと!?なんで見直した途端にこんなことすんの馬鹿!変態!」

手を振り払って、その場から逃げるように駆け足で去った。追いかけてくることはなかったので安心した。だが、先ほどのことが気に食わない。
柳のこと少しいいなって思ったのに!ドキッとしたのにどうしてそうなんの?!絶対にもう褒めてやらないし素敵なんて思ってやらない!

とことんどんな印象もぶち壊していく柳に“インプレッションブレイカー”というあだ名を付けたら、英語で「You are sly.I took to you more.」と言われた。しかし、選択授業で英語を取っていない私には全く理解できなかった。まあ、きっと習っていても発音のやたらいい柳の英語は聞き取れなかったと思う。

*****
あとがき
まず初めに相互ありがとうございます!
あまり書いたことのない系統のお話に頭を捻らせながら、一生懸命書かせていただきました。
しかし、変態柳さんでギャグっぽい話にちゃんとなったでしょうかね…。こんな小説で申し訳ないですがもらっていただければ嬉しいです…!
(~20130420)執筆

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