02
七代千馗という時期外れの転校生の噂を聞いたのは、卒業も近い秋の日のこと。
残す季節もあと二つというタイミングでの転入に情報屋としての何かが引っ掛かった。
奇しくもその頃、転入先の学校―――鴉乃杜には奇異な現象が起こると噂が絶えなかったのもあり、アンテナを高くしていたせいもある。
学園を取り巻く妙な噂と、転校生。
無視出来ないと判断し、俺は早速「七代千馗」について情報を集め始めた。

パソコンで検索する限りは目ぼしい情報も出てこない、ごく一般の高校生としか思えない。
だが、普通ではない、違うのだと頭のどこかで警鐘を鳴らす何かがあった。
そんなとき、俺は俺の勘を信じることにしている。
不確かな要素ではあるが、情報屋として培ってきた経験と勘は侮れない。

とはいえ、どこを叩いても情報は出てこない。
警視庁の警官のパソコンをハックして過去の経歴を探ってみるも空振りに終わり、いよいよ俺が考えているほど重要な人物ではないのではないかと思い始めた。
常識的に考えればそうなのだろう―――それなのに、心が否定する。
違う、と叫ぶように胸が痛む。
理由など分からない。理屈などないのかもしれない。
それでも、こいつだ、と心のどこかが俺の理性を揺り動かした。

キーボードを叩く指は止まらない。
知りたい。七代千馗のことを。
何でもいい、情報を、もっと、俺が望むままに、引き出す力がどこかにあるはず。
わけの分からないままにそう思う。
その力の源を、俺は識っているはずだと確信めいたことを考える。
どうして―――と問うことすら馬鹿馬鹿しい。
タンッ、とエンターキーを押した俺の目には、都市伝説のような「花札」の情報が映っていた。

「呪言花札」と呼ばれる、奇妙なモノ。
手にしたものは絶大な力を得ると書かれていた。
胡散臭いネタではあるが、虚偽であると一蹴出来ないのはどうしてか。
これは本物で、その力が俺の求めるものだと勘が訴えてくる。

(……いや、違う)

勘、などではない。
間違いないと確信出来るだけの何かが俺の中にある。
俺は識っている、のだ。
この花札が俺に力を、情報を齎すものであるということを、事実として俺は識っていた。
目で見たものしか信用しないこの俺が、花札の存在を否定もせずに理解している。
常識では考えられない力が存在し、それが花札に纏わるものであるということを、一片の疑念もなく受け止めている。
実に不思議な感覚であり、体験だった。

「呪言花札……鴉乃杜、そして七代千馗…か」

必要なデータをプリントアウトし、ファイルに挟む。
制服のポケットから取り出した携帯電話のリダイヤルボタンを押すと即座に耳慣れた声が応答した。

「…義王、少々調べたいことが出来た。ああ、お前の好きなお宝に関することだ。暫く単独行動を取らせてもらう―――いいな?」

イヤホンから聞こえる声が機嫌良く許可を出すのを聞き届け、通話を終わらせる。
お宝は呪言花札だが、それよりももっと気になるのは七代千馗だった。
何かが始まりそうな、そんな気がする。
七代千馗を中心に途轍もないことが動き出す―――予感のような、確信。

俺には予知能力などない。
だからこの感覚には必ず理由があるはずだ。
目に見えないレールが敷かれているというのなら、今はあえてそれに乗ってやろう。
神の采配なのか気紛れなのかは知らないが、恐らくは七代千馗への近道になるに違いない。

それこそが俺の「確信」だった。


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