01
幼い頃からずっと心に引っ掛かっていたことがあった。
身に覚えなどどこにもないのに、「何か」を失ったという強い思い、大事なものを失う喪失感を抱いて生きてきた。
父親を社会的に失ったときとは違う、二度と戻らない何かを失ったかのような―――。
そんな出来事があったはずはないのに、ただただぽかりと大きな穴が、開いたままになっていた。

その喪失感は何年経っても色褪せないまま、思い出すたびに胸の奥が張り裂けそうなほど痛くなる。
それなのに何を失ったのかが思い出せない。
物心つく前に失ったものであれば些細なものなのだろう、と自分を納得させようとしたこともあった。
だが、それでは説明がつかないほど痛みは酷く、失った、奪われたという意識が強すぎた。

どうしてかは分からない。
だが、確かに「何か」を「奪われた」、もしくは「失った」のだと、確信に近いものがある。

ならば奪われないためにどうしたらいいのか―――出た答えは簡単だった。

(奪えばいい。大事なものは全て、この手で掴めばいい)

常識で考えるのならば、誰かから奪い取るその行為は犯罪だ。
そのリスクを冒してもなお、奪われることに対する根幹的な恐怖を解消する方が大事だった。
小さい頃―――それこそ生まれ落ちてからずっと、何を失ったのか、どうしたら失わずに済むのか、そんなことばかりを考えていたから常識なんてものはもう麻痺してしまっているのかもしれない。

鬼印盗賊団に入団したのも当然の結果で、参謀としての地位を確立し、希望通りの「奪い取る」立場になった。
胸の奥は未だに鋭い痛みを抱いていたが、情報という力、そして組織としての機動力、絶対的なカリスマ性と力の象徴である頭目を備えた今ならば拭い去れない不安も多少は和らいだような気がしていた。

あの日、封札師の情報を掴むまでは―――。


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bkm



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