身分違い
「なぜ僕が君のような下級悪魔と付き合わなければいけないのだ?」
それはある日のベルゼブブ家裏庭で起こった。優一に借りていた小説を返しに来たら、じい(そう呼んで欲しいと以前言われた)に『ぼっちゃまは裏庭でございます』と言われ、そちらに向かった。
そこには可愛らしい女の人と優一がいて、そして冒頭に戻る。
どうやら彼女はわざわざお屋敷までやってきて告白したらしい。断られて絶句してる彼女は次の瞬間、涙をいっぱい溜めながらその場を後にした。
「優一も酷だねぇ」
「来てたのか」
彼はさも迷惑そうな顔で走り去った彼女の背中を見つめている。
「あぁでも言わないと引き下がらなかっただろう」
「でも美人だったのに」
「関係ない」
そう、彼はたとえ相手が美人でも“下級悪魔”に興味がない。
まぁ、私も下級悪魔なんだけど。でも昔からの縁でそこまでひどい扱いは受けていない。しかし告白なんてしたら二度と彼と話せなくなってしまうだろう。だから私は告白なんてしない。
「なまえは何しにここへ?」
「これ返しに来た」
ひらひらと本を見せると優一は納得したように頷いた。
「中に入るか?」
「んー、いい。寄るとこあるし」
「そうか」
別段興味もないのか、彼は私に近づいて手を差し出した。そこに本を乗せて『じゃあ』と踵を返す。しかしそこにある小さな窪みに足をとられ、前のめりに倒れた。
ぎゅっと目をつぶって襲い掛かるであろう痛みに耐えようとしたのだが、それよりも早く腕を引かれ、優一に抱き締められた。
「あ、ありがとう」
「………………」
お礼を言ったのだが彼からは何の反応もない。不思議に思って身体を捩らせたらさっきよりも強く抱き締められた。
ななな何が起こってるの!!?
私は軽くパニックを起こしていた。こういう時はどうすればいいのかもわからない。
「ああああの!優一!!?」
「………っ」
すると彼は我に返ったのか勢いよく私から離れた。
「す、すまない。急に立ち眩みに襲われて…」
あぁ、そうだったのか。
少しだけ期待してしまった自分が恥ずかしい。
「…カレーばっかり食べてるからじゃないの?」
「カレーをバカにするヤツは例えなまえでも許さない」
「はいはい」
このままだと彼のカレー談義が始まってしまう。だから私は逃げるようにして『またね』とこの場を去った。
「僕は何をしてるんだ」
立ち去るなまえを見つめながら自嘲気味に呟いた。
あれ以上踏み込んだらダメだと分かっているのに。
思わず抱き締めてしまった。
華奢な身体に甘い香りが僕の思考を鈍らせ、その結果があれだ。
我ながら下手な嘘だったと思う。
「はぁ…」
僕が貴族でなければこんなに悩まなかったのに。
これほど自分の地位を恨めしく思う事はなかった。
身分違い
(こんなにも優一が好きなのに)
(こんなにもなまえが好きなのに)
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