ビーズの予約
「戸締まりOKっと」
窓や部員のロッカーを確認して荷物を手に取る。そして部室を出てドアに鍵をかけた。
「ご苦労だったな」
「あ、先生」
声がかけられて振り向くと榊先生がいた。彼は私が帰らないと帰れないのでどうやら鍵をわざわざ取りに来たようだった。
「遅くなってすみません」
「いや、いいんだ。他の部員はもう帰ったのか?」
「はい。待ってるって言ってくれたんですけど、用事があるから帰ってもらったんです」
「ほう…用事、か」
先生は意味深に呟いて顎に手を添えた。
「校門の所にいるオレンジ頭の高校生と関係がありそうだな」
「えっ!!?」
薄暗い中、よーく目を凝らすとわずかに見えるオレンジ頭を見つけた。
「迎えに来てくれたんだ…」
顔の筋肉がつい緩んでしまう。慌てて戻したが、どうやら先生に見られていたらしく、フッと笑われた。
「変わったな」
「え!!?」
「いや、悪い意味ではない。むしろいい意味で、だ」
目を細めて私を見る榊先生。そしてポンッと肩に手を置かれた。
「あまり彼を待たせてはいけない。もう帰りなさい」
「あ、はい!」
ペコリと頭を下げて私は急ぎ足で校門に向かった。そして少し大きめの声で呼べば彼はゆっくりと振り返った。
「遅かったな」
「戸締まりも私の仕事だから」
「そっか。んじゃ帰るぞ」
空座高校と氷帝学園は反対方向。しかし一護は毎日ではないが迎えに来てくれる。
「今日は狼焔はいないんだな」
「霊力使いすぎたって言って寝てる」
「斬魄刀も寝るのか」
「狼焔は特別なんじゃない?」
「ふーん」
恋人同士になった私達だけど、昔からこんな感じだったからあまり変わらない。ただ少しだけ変わったのはこうして迎えに来てくれるようになったのと、どちらからともなく手を繋ぐようになったのぐらいだ。
「「…………」」
恥ずかしいのは抜けていないが。
「…今日はみんなで来るんでしょ?」
「あ、あぁ。遊子も花梨も親父も楽しみにしてる」
他愛もない会話。だけどなんだか嬉しい。
私は一護にバレないように笑った。
「…そうだ、なまえ」
急に立ち止まった彼に腕が引かれ、私もその場に止まる。
「なに?」
「ちょっと待ってろ」
ごそごそとポケットを漁ったかと思うと、何かを手の中に入れ私に見えないように確認した。そして『よし』と呟いたかと思うと、握っていた手を解いた。
「左手出せ」
「左手?」
言われるがまま左手を出す。掌を見せるようにしたら彼は一瞬顔をしかめてくるりと私の手を反転させた。
「……これは花梨から」
その言葉と共に薬指に何かがはめられた。見るとそれはビーズで作られた指輪で。
「うわぁ」
とても可愛らしい。
「こっちは遊子」
次に貰ったのはやはりビーズで作られたネックレス。さっそくつけてみると夕日に反射してキラリと光った。
「でも何でいきなり?」
「あー、その…なんだ」
言いにくそうにして視線をさ迷わせる一護に私は首を捻る。
「……予約だ」
「予約?」
「だからだな…」
だんだんと一護の顔が赤くなっているのは気のせいだろうか。
「……っ、だぁ!なんで俺がこんな思いしなきゃなんねーんだ!!!」
「はぁ?」
「とにかくそれは予約だ!いいな!!?」
いきなりキレだす一護にますます私は困惑する。
「ほら、帰るぞ!」
なぜか耳まで真っ赤にした彼は私の手を取って急いで歩き出した。
ビーズの予約
(違うよお兄ちゃん。それはこっち)
(こ、こうか?)
(一兄って不器用だよね)
(うるせーな!!)
(婚約指輪とネックレス…健気だねぇ)
(うるせーって言ってんだよ!!!)
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