それは少し前の話
「んな…」
あんぐりと口を開け、張り出されているテスト結果を見つめる。
「どうした?」
横から覗き込んできた快斗は興味無さそうに『あぁ、中間テストのやつね』と呟いた。
「あんた…頭良かったっけ…?」
「今回はたまたまだろ。って口調」
彼に指摘されてはっと手で押さえる。衝撃的な結果にここが学校だということを忘れていた。
「ふーん、なまえは17位かぁ」
「な、なんですか…」
「いや、いつもはもっと上だったのになぁって」
「…………っ」
そう、いつもなら私は1桁台に入っている。だけど最近、寝る暇もないほど仕事が忙しくて勉強どころじゃない。というかそのほとんどはキッド対策に追われているのだ。
………って、全部キッドのせいじゃない!!!
「まぁ今回は少し難しかったしな。期末で挽回すれば…」
ぐいっと彼の襟を引っ張り、耳元に口を寄せる。
「てめーのせいだコラ」
「……なまえちゃーん?ここ学校ですよー?」
「てめーが私の邪魔しなければテストだって捗るんだよ。毎日毎日キッドの事ばかり考えて寝ようとしてもキッドが頭にちらついて…頭から離れないんだよ!」
「…………っ」
どうしてくれるんだ、と言おうとした私の目の端に快斗の赤く染まった頬が見えた。不思議に思って襟を離して離れてみると、トマトのように真っ赤な顔を腕で隠す快斗がいた。
「な、なんでそんなに赤いんですか?」
「なんでってそりゃお前…」
ちらりと腕の隙間から私を見たかと思うと、快斗は視線をふいとずらした。
「い、今のセリフ、告白にしか聞こえねーんだけど」
「はっ?」
今のセリフ…?
私は先ほどのセリフを頭の中で反芻した。
『毎日毎日キッドの事ばかり考えて寝ようとしてもキッドが頭にちらついて…頭から離れないんだよ!』
……………っ!!?
「ちちち違うわよ!!!だだだ誰があんたの事っ!」
「わ、分かってるよ!そう聞こえたから言っただけで…」
「あんたは私の敵なんだからね!!明日の獲物だって私が…」
「なまえー!結果どうだった?」
突然やってきた青子の声に私達はびくりと身体を震わせた。
「あ、青子」
「あれ?快斗も一緒?ちょっとなまえに変な事してないでしょうね」
「してねーよ!」
じとっとした目で快斗を見る青子。どうやら先ほどの会話の内容までは聞かれてないみたいだ。
「なまえはお嬢様なんだから、変な事教えないでよね。さっきだって荒々しい口調教えてたでしょ」
「ばか、そんなんじゃねーよ。こいつは元から…」
ダンッと思いっきり快斗の足を踏みつける。その瞬間彼は声にならない叫びをあげた。
「申し訳ありません。季節外れの蚊が飛んでいたみたいなので」
「…蚊なんているわけねーだろ」
「あら、もう1匹」
「…………っ!!?」
今度はぐりぐりと踏みつける。快斗は目に涙を浮かべた。
「さ、青子。快斗は放っておいてそろそろ戻りましょう」
「うん」
「ま、待てコラ…」
その場にうずくまった快斗を見下ろしてフンッと鼻を鳴らした。
いつも横取りされてばっかりなんだから、たまには反撃してもいいでしょ?
白い怪盗さん?
明日こそ盗られないように私はぎゅっと拳を握った。
それは少し前の話
(……っていうのがあったね)
(あの時はほんとに殺意が湧いたぜ)
(あら、また蚊が)
(いってー!!!!!)
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