意地悪な貴方
おかしい。この状況はすごくおかしい。
「あ、あの…ベルゼブブさん?」
「なんですか?」
「なんで私は貴方に押し倒されているんでしょうか!!?」
目と鼻の先にある整った顔から逃れるため、私は思いっきり顔を背けた。
それは久しぶりに事務所に顔を出した日の事。中を覗けばいるはずのメンバーがいなくて、代わりに人の姿をしたベルゼブブさんだけがそこにいた。
話を聞けばさくちゃんとアザゼルさんと芥辺さんは仕事で出掛けてしまったらしい。私は警戒する事なくいつものように紅茶を淹れて彼の隣に座った。
『今日は涼しいですねー』とか天気の話をして、クッキーを食べていたはずなのに、急に名前を呼ばれたかと思うとソファーに押し倒されていた。
「うーん…なんとなく、でしょうか」
「だったら退いて下さい!」
ベルゼブブさんの胸を押すがびくともしない。やっぱり男の人なんだなぁ…って考えて我に返る。
いやいや、今私押し倒されてるんだよ!!?なにのんびりしてるの!!?
慌てる私を見てベルゼブブさんはニヤリと口角を上げ、空いてる手で私の頬を撫でてきた。
や、やばい!このままだと確実にヤられる!!!
「と、というかなんで人の姿をしてるんですか!!?」
注意を逸らせばその間にさくちゃん達が帰ってくるかもしれないと考え、不思議に思っていた事を聞いた。
「ソロモンリングはどうしたんです!!?」
「解かれてます」
「えぇっ!!?」
なんで!芥辺さんが解くなんてきっと明日は嵐だ!!!
「先程まで僕はさくまさんの尾行をしていたんですよ」
「尾行…?」
「はい。なまえさんは暫く顔を出していなかったので事情は分からないでしょうが」
そう言ったベルゼブブさんの表情は何だか苦々しい。そしてぼそりと『思い出すだけでも腹立たしい。僕のデザートが…』とか呟いている。
「…まぁ、その後彼らは別件で出掛けてしまい、僕もカレーを食べに行こうと思っていたらなまえさんが来たんです」
「はぁ…」
「ナイスタイミングですね」
「私にとってはバッドタイミングなんですけど!!!」
あぁ、もう嫌だ。私が何を言っても彼には通じない。
「…まぁ、このまま貴女を頂くのもいいのですが」
「良くないです!!!」
ブンブンと頭を振ると、ベルゼブブさんはやっと私から退いた。
「もうこんな時間です。お腹空いたでしょう?」
「へっ?あ、まぁ…」
「カレーでも食べに行きましょうか」
さっきとは違う優しい微笑みを浮かべてベルゼブブさんは私に手を差し伸べた。
その笑顔にドキドキしながら、ぎゅっと手を握った。
意地悪な貴方
(帰ったら続きでもします?)
(さくちゃん早く帰ってきてー!!!!)
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