愛は計れない




「黒羽せんぱーい!」

昼休み、快斗と青子とお弁当を食べようとした時に黄色い声が響いた。そちらを見ると可愛らしい女の子が快斗に手を振っている。

「…呼んでいますよ」

「お、おぉ」

快斗は私をちらりと見てから席を立って彼女に近付いていった。

「また?」

「うん」

青子は呆れた顔でドア付近で話す2人を見ている。彼女、永澤さんが快斗にまとわりつくようになって1週間が経つ。どうやら快斗が好きみたいだ。快斗も快斗でどこかにキッドの紳士さがあるみたいで無下には扱えず、永澤さんの相手をしていた。

「快斗ってなんだかんだ人気あるからねぇ」

「そうみたいですね」

自然と刺々しくなる言い方に青子はニヤリと笑った。

「ヤキモチ?」

「なっ!!ち、違っ…!」

「はいはい、そんなに心配しなくても大丈夫だって。快斗はなまえが大好きなんだから」

ね?と諭すように言われ、私は大人しくタコさんウィンナーを食べた。



放課後、どこかに行ってしまった快斗を教室で待っていた。彼は少し困った顔で『ちょっとな』と言っていたが…。

「快斗のばーか」

今は誰もいないのであからさまに顔をしかめる。頭に永澤さんが過ったからだ。快斗をライバルとしか見ていなかった時は誰が彼に靡こうが気にならなかったのに、恋人同士になってからは目敏くなってしまった。

付き合い始めてから噂が広まって快斗の周りにいた女子も居なくなったのに。

はぁ、と息を吐いてふと窓の外を見た。すると裏庭には待ち人の快斗がいて、きょろきょろと辺りを見渡している。

「誰を探してるんだろ?」

すると現れたのはさっき頭に過った永澤さんだった。彼女は快斗に駆け寄り、ぎゅーっと抱き付いた。

ズキンと心臓が痛むのと同時になんだかムカムカとしてきた。

彼女を待たして他の女の子と会ってるってどういうわけ!!?

気づけば私は教室を飛び出し、裏庭に向かっていた。

「私、黒羽先輩が好きです!」

裏庭に着いて聞こえた声にさっと身を隠す。

「だから何度も言ってるけど、俺にはなまえが…」

「あんな先輩のどこがいいんですか!!?」

“あんな先輩”って、何で永澤さんに言われなきゃいけないのよ。

ムッとして木の陰から2人を覗く。

「ただのお嬢様でいっつもニコニコしてて何考えてるか分からないし、私が黒羽先輩に会いに行っても顔色一つ変えないし!!」

「確かにそうだな」

快斗は何が面白いのか、ククッと笑う。

「でも俺はなまえの考えてる事は分かるし、本当は永澤さんが来て機嫌が悪くなってるのも知ってる」

……バレてたなんて、私もまだまだね。

だから快斗は永澤さんが来る度に私の顔色を窺っていたのか。

「………っ、でも私の方が先輩の事好きです!!」

「それ以上に俺はなまえを好きだぜ」

恥ずかしげもなく言う快斗に、かぁっと顔が赤くなった。

「…じゃあ」

永澤さんは快斗の頬を両手で押さえ、そして怪しく微笑んだ。

「私の方がなまえさんよりキスが上手だと教えてあげます」

「うぇっ!!?ちちちちょっとそれは…!!!」

ゆっくりと近付いていく2人の顔。快斗も顔を赤らめて小さく抵抗していた。…小さく。

私は駆け足で彼らに近付き、永澤さんの腕を掴んだ。

「なまえっ!!?」

横目で快斗を見てからふぅと深く息を吐く。

「遅いから来てみれば随分と楽しそうな事してるじゃない」

「あ、いや!これはだな、なまえ…」

「永澤さん」

快斗の言葉を遮って口を開く。彼女はキッと私を睨んだ。

「なんですか?」

「…私は貴女が思ってる以上に快斗が好きです。ただこういう性格だから顔にも態度にも出ないでしょうが」

「………」

「なまえ…」

「だから貴女に渡すつもりなんてないの」

どれだけ快斗が好きかなんて他人に計られたくない。というか計れるわけがない。

まさかこんなに快斗を好きになるなんて、数ヵ月前まで予想もしていなかった。

「悪いけど快斗の事は諦め…」

ふわり、と後ろから抱き締められた。突然の事に頭が働かない。

「か、快斗…?」

「ヤベー、今すっげー嬉しいんだけど」

ぎゅーっと腕の力が強まる。

「俺もなまえが好きだ」

「ちょ、ちょっと!今言うことじゃないでしょ!!!」

「オメーは言っただろ?」

「あ、あれは勢いというやつで…」

「もういいっ!!!」

悲鳴にも近い声が私たちの耳をつんざいた。

「勝手にやってれば!!?」

ふんっと鼻を鳴らして彼女は立ち去る。私達はただポカーンとその様を見ていた。

「……帰ろうか」

「……あぁ、そうだな」

そして私達はカバンを取りに教室へ戻ったのだった。



愛は計れない

(そっかそっか、なまえって俺が大好きなのか)
(う、うるさいな!)


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