眠る彼
「うー…」
事務所のソファーに座って読書していると、隣から息苦しそうなベルゼブブさんの声が聞こえてきた。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんだか頭痛がしまして…」
「頭痛が?」
そっと彼のオデコに手を当てる。
「…少し熱があるみたいですね」
「そうですか…」
ふぅ、と吐いた彼の息は熱っぽい。
「芥辺さんとさくちゃんには私から言っておきますから帰って寝てください」
「嫌です」
ベルゼブブさんはふいっと横を向いてしまった。私はそんな彼に息を吐く。
「ここにいるよりお屋敷に帰った方がいいですよ」
「嫌です」
「ベルゼブブさーん!」
どうして彼はこうも頑固なのだろう。悪魔の風邪なんて詳しく分からないし、人間の風邪薬を飲ませるわけにもいかない。だから帰って寝た方が彼にはいいと思うのだけど…。
「………だって」
「はい?」
蚊の鳴くような声に耳を近づける。
「…だって今日はなまえさんと一緒にいると決めたんです」
「ベルゼブブさん…」
嬉しい言葉に顔が赤くなる。彼の顔もほんのり赤かった。いや、これは単に熱のせいかもしれないが。
「………分かりました。じゃあせめて横になってください」
「…はい」
諦めたベルゼブブさんはソファーに横になろうとした。その時、彼の身体を軽く引っ張って頭を私の膝に乗せた。
「なまえさんっ!!?」
「枕があった方がいいと思いまして。高くないですか?」
「…大丈夫です」
仰向けに寝ているベルゼブブさんのオデコにもう一度手を当てる。
「…なまえさんの手、冷たくて気持ちいいですね」
「それは単にベルゼブブさんの体温が高いんですよ」
「そう、ですね」
うつらうつらとし始めるベルゼブブさん。オデコから手を離して彼の頭を優しく撫でた。
「なまえさん…」
「眠ってください。起きたら少しは楽になっていると思います」
「…はい」
「おやすみなさい」
「おやすみ、なさい…」
ゆっくりと目を閉じ、暫くすると寝息が聞こえてきた。私は前に屈んで彼のオデコに口付けた。
眠る彼
(よくなりますように、と願いを込めて)
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