素直に
ザァザァと雨が降っている。私はその中を傘もささず立ち尽くしていた。
いくら初夏といえど雨が当たれば寒い。しかし雨宿りをする気はなかった。
なに、してるんだろ。
自嘲するように笑う。
私はばかだ。さっきさよならしたばかりなのにもう会いたいなんて。
雨とは違う温かいものが頬を流れていく。
「……っ、ひっく」
彼が私を構ってくれないなんて良くある事。さくちゃんだけに優しいのはいつもの事。
それなのに我慢できなくて、つい感情のまま想いを吐き出して飛び出してしまった。
後でさくちゃんに謝らなくちゃ。
彼女は全然悪くない。それなのに傷付けてしまった。
「もう、やだ…」
こんな自分が嫌だ。感情をコントロール出来ない自分が嫌だ。
「うぅっ…」
顔に手を当ててその場にうずくまる。雨は私の涙に比例して激しさを増していった。
「………こんな所にいたのか」
雨音が響く中、はっきりと聞こえた声。私はゆっくりと顔を上げた。
「な、で…」
そこには、黒い傘をさした芥辺さんがいた。彼の手にはビニール袋が下げられている。
「買い物のついでだ」
「……そう」
探しに来てくれたわけではないらしい。私はあからさまに落胆した表情を浮かべる。すると彼は深く息を吐いてゆっくりと近付いてきた。
「帰るぞ」
「……イヤ」
ふるふると力なく頭を振る。
迷惑をかけたくない。だけどあんな事があった後で普通に戻るなんて出来なかった。
「なまえ」
「イヤだって言ってるの!!!」
悲鳴にも似た声をあげると、彼はピタリと歩みを止めた。
「……勝手にしろ」
「あ…っ」
芥辺さんはくるりと背を向けて元来た道を歩いていく。
「…………っ」
バカだ。私は大バカだ。もうこれで完全に呆れられた。嫌われた。
「うっ、ひっく…」
ごめんなさい、と素直に言えたらどんなに楽か。
「ふぇーん」
みっともないけど、私は声をあげて泣いてしまった。
「…泣くなら素直に来ればいいだろう」
今まで私の身体を打ち付けていた雨が止んだ。そして芥辺さんの低いけど優しい声が響いた。
「どこまで手のかかる女なんだ」
雨が止んだのは彼が持っていた傘をさしてくれたからだった。
「あく、たべさんっ」
「……帰るぞ」
さっきよりも優しい声音に、私は立ち上がって彼に抱き付いた。
「ごめ、なさいっ」
寂しかったの。貴方が構ってくれなくて。
寂しかったの。さくちゃんばかりに優しくて。
「ごめんなさいっ」
「…………俺も」
悪かったな、と彼は私を抱き締めてくれた。温かい彼の体温にまた涙が溢れてくる。
「あ、芥辺さぁん」
「泣くな。これ以上ブスになるだろ」
「はい〜…ふぇーん」
「泣くなと言ってるだろ」
彼は呆れながら、でも少しだけ嬉しそうにして私の頭を撫でてくれたのだった。
素直に
(さくちゃーん!!!さっきはごめんねー!!!)
(いいんですよ。なまえさんが元気になってくれて良かった)
(さくちゃん大好きー!!!うわーん!!!)
(今のなまえ、涙腺ゆるっゆるやな)
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