──現在、




あれからもう一年経つ。


「春日君」


奥のデスクから宮白がまた司を呼んだ。


「志藤(シドウ)さん、帰ってきたよ」


宮白の言葉が終わるか終わらないかのところでデスクとは反対側から少々荒々しくドアノブが回る音がする。
司が音のする方へ振り返ると丁度人が一人入ってくるところだった。


「あ。おかえりなさい、シドさん」


入ってきたのは三十代を過ぎたくらいに見える男だ。
宮白とさほど変わらない年頃に見えるが、中肉中背で黒髪にフォーマルなスーツの宮白とは対照的に、割りとがっしりした体格に茶髪でフライジャケット、ジーンズとラフな格好はこの空間には少々不釣り合いに映る。
それを意に介することもなく男は迎えの声におう、と短く返しただけで司には目をくれずに乱雑な足運びで室内へと進む。
代わりに宮白を見据えて明確な第一声を発した。


「宮白、今度の依頼だが、」
「志藤さん」


しかし、宮白は名前を呼んでそれを制した。
穏やかではあるがはっきりと、行動を止める為に発せられたことが判る声音に志藤と呼ばれた男は一瞬だけ眉をひそめる。


「まずは座ってくれないかい?それは矢継ぎ早に話すことではないだろう?」


宮白は流れるような手つきで司の座るソファーを示す。
その手の動きに慌てて司がソファーの端に寄る。
何か言うつもりで身を乗り出していた志藤は納得いかないようだが、さして反論できる要素もなかったのか渋々といった様子で司の隣に座った。


「“相棒”を差し置いては話にならないよ、志藤君」


茶化すように笑う宮白に志藤は眉間に深い皺を寄せる。
その態度に宮白はまた笑ったが、司の方は困ったようなそれでいて少し悲しそうな、何とも言えない曖昧な顔をして志藤から顔を逸らした。



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