──代わらない為に変わる夢を見る




その後の司の日常は目まぐるしいほど変わっていった。


胸から腹部にかけての傷も塞がり、不思議と疼くこともなくなった。
傷が心配なうちはしばらく唐木の家で世話になっていたが、年が明けて数ヵ月後にはあの家を引き払い都心のマンションへ咲夜と共に移り住んだ。
唐木との同居生活中に懐いた黒猫を新しい同居者に加えて。

学校は怪我と心的外傷を理由に休学。
それから復学し卒業はしたものの、司は高校には行かなかった。

理由は誰にも言っていない。
勿論咲夜にも告げていないし、今でもほとんど誰にも話していない。

それに関しては随分咲夜と揉めた。
一回りも年が離れ、互いに面と向かって話したことなど数えるほどもない姉弟にとって、今回の事態で度重なる深刻な状況に対応する容量の限界を迎えてしまったらしい。

多分人生で一度きりだろう本気の殴り合いの喧嘩をした。
滅多に上げない怒鳴り声を上げ、手を上げ、それは凄まじかったようだ。
後日迎えにきた唐木が目の周りや口の端に青痣を作って出迎えた姉弟に、今日は休んだ方がいいと必死に勧めたくらいだから。

それでも司は理由だけは頑として口を割らなかった。
黙秘という形で相手を納得させようとなどかなり乱暴な手段だったが、司は押し切り、結果として咲夜が折れた。


理由は言えなかったのだ。
匠を、未だ尚見つからない兄を探す為だとは。



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