「逆に聞くと、どうして君はこんな怪しい男にのこのこ連れて行かれてるんだろうね」
「……今夜寝るとこ提供してくれそうだから」
「ふぅん」

 茉莉の真意を測るように一瞥すると、男は次の瞬間にはもう何でもないように前を向いた。
 
「ていうか自分で自分の事怪しいって言うな」
「ここで僕は怪しい者じゃありませんって言う奴の方が信用出来なくない?」

 男の言う事も道理なので茉莉は黙った。
 何にせよ、何を言ったにせよ怪しい。
 
「折角だから色々遊んでこうよ」
 
 遊ぶって。
 呆気にとられる茉莉を放置して男はどんどんと話を進めていく。
 
「うん、やっぱホテルじゃなく僕の家に行こう」
「なにそれ」
「その方がゆっくり出来るしね。やっぱ夜は思いっきり寛ぎたい」

 初対面の男の家で思い切り寛げるわけがない。
 そう反論したいところだが、口を挟む隙もなくあっさりと決定してしまい。
 
 茉莉は考えるのをやめた。
 家に帰らずに済むのなら、何だっていいと思ってこの男についてきているのだから今更だ。
 
「とりあえずどうする? カラオケ行く?」

 僅かに歩調を緩め、茉莉を振り返った男はやはり穏やかに笑んでいた。
 
 
 結果を言えば。とても本気とは取れない内容と口調なのに、最後まで男は言葉の通りの行動をしたのだった。
 日中は散々茉莉を連れ回し、スーパーで材料を買い込んでご飯を作らせそして、寝た。
 
 茉莉を買うだなんだとのたまっていたものの、一晩の宿代だと茉莉は何も受け取らず次の日こっそりと男の家を後にした。
 
 それだけで終わるはずだったのだ。
 連絡先の交換なんてしていない。だから、茉莉から男の家を訪ねなければもう二度と会う事なんてないはずだったのに。
 
 
 再会はあまりに早く、唐突だった。
 
 一週間後。お決まりのように連れと遊んでいるときにばったりと出会った。
 男は一瞬だけ目を見開いたが、すぐ面白そうに茉莉を見やり、言った。
 
「偶然ってのは割と好きだよ。このまま君を連れ去ってもいいけど二度ある事は三度あるって言うし。ねぇ?」

 男が何を言わんとしているのか解せず、茉莉は首を傾げた。
 
「今度もう一度偶然会う事があったら、その時は君をかってあげるよ」

 興味津々で二人を見ていた友人達が唖然とするのに十分過ぎる台詞だった。
 口を開けたまま呆ける女の子達に笑い、茉莉の反応ににやりと口の端をあげる。
 
 威嚇するように睨んでくる少女。
 
「前から思ってたけど、あんた悪趣味だね。別に金払ってまでしなくても、女なんか抱きたい放題でしょ」
「お金あげるって言ってるのに貰わずに逃げ出す子も珍しいと思うけどね。それに、もう君を買わないよ」

 無茶苦茶で支離滅裂だ。
 成立しない会話に苛立ちが募る。
 
「あんた――」
「“買う”んじゃない。“飼う”んだよ。道で拾って連れて帰って餌付けするんだ。家の中に閉じ込めて僕が好きな時に好きなだけ愛撫して可愛がってあげる」

 ペットみたいに。
 
 そう語る男の瞳はどこか恍惚としていて、どこか妖艶な雰囲気が漂っていた。
 

 

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