亘浮に初めて逢ったのは高校二年の夏休み。
 数人の友達と特に目的もなく街をぶらついているときだった。
 
 昼夜問わず何をするでもなし、ただみんなで集まって。時に声を掛けてきた男達と遊んで。学校から繁華街へと場所を変えただけで毎日を無為に費やしていた。
 
 他の子がどう思ってるのかは知らない。茉莉はそうやって馬鹿でも無駄でも時間さえ流れてくれればそれで良かったのだ。
 
 一日一日が早く過ぎて行けば。
 
 カラオケや漫画喫茶、友達の家で寝泊まりを繰り返し家には殆ど居つかなかった。
 
 茉莉にはあそこが自宅と呼べる場所なのか分らない。帰る処だという認識は薄かった。
 そしてそんな茉莉を咎めだてをするような人もおらず、ましてや心配などされない。
 
 
 その日はたまたま連れの全員がそれぞれに用事があって、茉莉一人だった。
 賑やかしく騒ぐ気分ではなかったが、単独で行けるような場所は限られている。
 
 近くにあった自動販売機にお金を入れた。
 
 さて、どうしようか。
 
 何を飲もうか。何処へ行こうか。
 数瞬躊躇ってカフェオレを押すまでのほんの僅かな隙。
 
 ピッ、ガシャン
 
 細く長い、けれども茉莉よりも骨ばった男の手がすっと伸びてきて、押した。
 コーラを。
 
「はぁ!? 何してんの私炭酸なんか飲めないんだけど!!」
「じゃあ僕が飲んであげようか?」
「当たり前でしょっ、あんた以外誰が飲むっての責任取んなさいよ!」

 男は激昂する茉莉に目を瞬かせた。
 確かに怒らせようとして取った行動ではある。あるのだが。
 
「ふはっ」

 当たり前だというその内容の何とずれた事か。
 
「仕方ないなぁ。じゃあ責任とって僕が買ってあげるよ、君を」

 くすくすとどこか心地よさのある笑い声。
 
 言われた意味がすぐには理解出来なくて、茉莉はコーラを飲む青年を暫く黙って見つめていた。
 
 冗談だろう。そうに決まっている。

「……幾ら」
「ん?」
「幾ら出してくれんの。買ってくれんでしょ?」

 完全に悪ノリだった。
 男からコーラを奪い口に含む。
 発砲が咥内に広がって、飲みなれていないその感覚に咽そうになった。
 
 眉を寄せれば男はまた可笑しそうに目を細めた。
 
「幾らでも」

 僕これでも結構お金持ってるから。
 
 実に軽いその言葉は男の本意を微塵も見せてはくれない。
 ああ。軽いのは茉莉なのか。
 声を掛ければすんなりとついてくるような子だと思われたのか。
 
 それともどちらでも良いのかもしれない。
 ここで茉莉が頷けば交渉成立、拒絶すれば決裂。
 
 この男はなんという。
 
「暇人」
「否定出来ないのが悲しいねぇ」

 男が距離を詰めた。ゆっくりと茉莉の手を握る。何故か振り払う気にはなれなかった。
 こんな周囲の目がある中で何をやっているんだろうと思わなくもなかったが、それすらも気にならない。
 
「どうして私なの」
「体の相性が良さそうだったから?」
「最低」

 見ず知らずの少女に声を掛けるような男だ。まともな回答が返ってくるはずもないか。
 

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