3.きっといつか捨てられる



 夢オチって素敵な言葉だと思う。

 全てを空想の産物で終わらせてしまえたら、この世の中苦労知らずだ。朝起きてテーブルを見ると、そこには誰もいなかった。

 やっぱ男の子を拾うなんてあるわけないじゃん! 真相心理ではわたしもああいうのに憧れてたのかなぁ。

 知らなかった自分がそんな乙女思考だったなんて。ははは! と、笑うのが虚しい。
 一瞬、夢オチだと喜びかけたわたしの心は数秒後に打ちのめされた。床に毛布にくるまれて穏やかな寝息を立てている廿六木くんがいた。

 テーブルに突っ伏した体勢にも限界があって床に移動したらしい。
 昨日の出来事はどこまでも現実だったようだ。ベッドの上で伸びをする。取り敢えず。起こすのが先か、朝ご飯を作るのが先か。

 ……うん。

「そろそろ起きろ」

 枕を投げてみると、見事廿六木くんの頭にぶつかった。
 呻き声を上げて身じろぎする彼は、起きるかと思いきや枕を手繰り寄せて胸に抱くと、また動かなくなった。

「いやいやいや起きましょうよ」
「あと5分」
「5秒も待ちません」

 スタスタと彼の傍まで寄ると思い切り毛布を剥ぎ取る。よく赤の他人の家でこんな惰眠を貪れるな。
 見下ろしていると、廿六木くんは何か呟きながらもゆっくり体を起こした。

「おはよう」
「あー、あ? おーはよう、ございます」
「身体痛くない?」
「背中と、足が、痛いです」

 でしょうね。でもコンクリートで寝るよりマシだろう。

「ところで廿六木くん、わたしは今から着替えようと思うのですが、君はさてどうするべきでしょう」
「えーっと、見てる?」
「顔洗って目ぇ覚まして来い!」

 彼がいい子なものか、ただの健全な男子高校生だったわ。
 高校、あ、そういや学校。今日は木曜、祝日なんかじゃなくバリバリ普通の平日だ。

 わたしは3限からだからゆっくりしてるけど、高校って9時前にはもう授業始まってたよな。

 時計を見たら8時半。今からじゃどう考えても無理なんですが。
 まあ別にわたしが責任もって学校行かせなきゃいけない義理もないか。着替え終るのと廿六木くんが洗面所から戻ってくるのがほぼ同時だった。

 あっさり入って来たけど、わたしがまだ着替え途中だったらどうするつもりだったんだ、見るつもりだったのか。 想像で腹立ったから机の上に転がってた空き缶投げた。

「ふえっ、何で!?」

 反射神経いいな。避けられるとは思ってなかった。コン、と軽い音を立てて缶は壁に当たった。

「廿六木くん学校は」
「今日は、振り替えで」
「何の」
「えー、えーっと」

 サボりか。しどろもどろになる彼を放置してわたしは部屋を片付ける。
 まぁ罪悪感を持ってるだけまだ良い方なんじゃないだろうか。

 堂々と休む宣言されたりしたらわたしはすぐさま尻を蹴って彼を追い出すしかない。
 でも可愛いところがあるから。

「そろそろ出てってくれない?」

 ちゃんと一言伝えてから出て行かせよう。

「そんなぁ」

 泣きそうで情けない声を出すデカい男ってのは見ててあんまり気持ちのいいものではない。

 昨日の夜はちょっとした気の迷いを起こしてしまったけれど、言動を見て分かる通り、わたしは心優しい人間じゃない。

 彼に事情があるのは聞いたけど、だからってわたしが関わる筋合いはないんだ。むしろ関わり合いたくない。

 家出も継母とのケンカも、学校サボるのだって勝手にやってくれて大いに結構。
 ぐいぐいと彼の背中を押して玄関の前までやってきた。

「あの、千吉良さん……その、帰る前に」

 床に視線を落としてもじもじしている。正直少しと言わず大分気持ち悪い。
 図体がデカいだけに可愛らしさの欠片もない。
 無言で先を促すと、廿六木くんは両手をわたしに差し出した。

「この部屋の合鍵下さいっ!」
「さっさと出てけ家出野郎っ!」

 顔を真っ青にさせているが、断るに決まってるでしょうが、そんな非常識な申し出。
 




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