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 自分から手放したくせに、求めて止まない。
 我慢なんて出来るはずがない。
 解っていたはずなのに、誰かに訊かずはおれなかったのは諦められない確かな証拠で。

「どんなに上手く立ち回ったって、いつかどこかで誰かと衝突するものだよ。だったらそれは他の人には譲りたくないって思うもののためでありたい。違う?」

 侑莉は俯いたまま、ふるふると頭を振った。

「うん、侑莉に足りないのは他者より自分を優先する勇気だね」

 昔から、敵意を向けられる事を極端に恐れて自分を押し殺す癖がついてしまっている。

 争うくらいなら自分が負ければいい。引けばいい。些細な事で気に病み苛まれる弱い精神力が、皆に優しくさせる。

 誰だって良く見られようと八方美人になったり見栄を張ったりするものだ。
 けれど度が過ぎればただの逃避でしかない。
 ただの弱さだ。

 難しい事を言っている。侑莉でなくても。
 頭では割り切れても、いざ行動に移すとなると二の足を踏んでしまう気持ちは分かる。

 自分が幸せになるために、人には泣いてもらおうなどと簡単に出来るわけが無い。
 普段はきつい事を平気で言ってのける巧だってきっとそう。

「それともう一つ」

 人差し指で天井を指す父を、二人は目を瞬かせて見た。

「これは相手ありきの話だからね。行動を起こす起こさないの選択権を持っているのは何も侑莉だけじゃない。皆が自分の思うように動いて結果どうなるか……要するに一人で悩んでても答えは出ないって事だ」

 自分の思い描いたようにすんなり進んだりしない。
 それぞれが別々に考えて行動しているのだから当然だ。

 侑莉が危惧する事態になんてなり得ない可能性だって低くない。
 何を悩んでいたんだろうと笑い飛ばせるかもしれない。

 その時が来てみないと分からない事だ。
 いちいち気に病んでいては身が持たないだろう。

「もっと楽に構えていればいい。いざとなればお父さんがいるからね。干渉はしないが、何時だって二人の味方だ」

 ガシガシと二人の髪を掻き混ぜた。

「随分長くなってしまった。けど長くなったついでに侑ちゃん」
「なに?」

 とっくに食べ終えていた父親の食器を片付け始めていた侑莉は、手を止めずに問うた。
 父親の目つきが変わったのも気付かずに。

「さっき言ってた好きな人ってのは、誰の事?」
「……と、とやかく言うのやめるって」
「なに、お父さんに言えないような人なの? 場合によっては興信所で身元調査依頼するけど?」
「どっこも変わってないじゃない!」

 長ったらしい講釈は一体なんだったのだ。
 こうなるだろうなと予想していた巧は、やれやれと侑莉を放ってお風呂に入るべくリビングを後にした。





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