▼page.1 今日の晩ご飯は何にしようかな。 講義が終わり、帰り支度をしながら侑莉は自宅の冷蔵庫の中身を思い浮かべていた。 ファイルを仕舞おうとカバンを開けて、携帯電話が振動しているのに気付いた。 別の学科の友達からの着信に迷わずに出る。 「ひっさしぶりー!」 「はい」と返事をする前に相手からの挨拶が入り、侑莉は電話を耳に当てたまま固まった。 友達は女の子のはずなのに、明らかに耳に届いたのは男性のものだ。 あれ? と一端離してディスプレイを見てもやはり想像通りの子の名が記されている。 その間も男は何かを喋っていた。 どこかで聞いた事のある声のような気がする。 「え、あの……?」 「二ヶ月ぶりくらいじゃね? オレ今門のとこいんだけど、これから時間ある? つーかないと困るんだわぁ」 侑莉の困惑など知ったことかと言わんばかりに、矢継ぎ早に相手は述べる。 その口調と強引さ、咄嗟に自分のペースに上手く引き込んでしまう話術にはやはり覚えがあった。 「いや、ていうか……み、瑞貴さん、ですか!? なん、何でどうして!」 「まぁまぁ直接話そうや。んじゃ早くな」 混乱しきりな侑莉を置いてさっさと通話を切断された電話を眺める事暫し。 はたと我に返り、事の成り行きを黙って眺めていた友達に謝って先に講堂を出た。 二ヶ月ぶり。そう、そのくらいだ。もうそんなに経ってしまった。 懐かしいと言う程昔の事ではないけれど。 元の生活に戻った今となっては、彼らを思い浮かべようとすれば過去の思い出を引っ張るような形になる。 みんな元気にしているだろうか。 どうして。どうして今になって瑞貴は現れたんだろう。何かあったのか。 オーナー達か凌、どちらの用件だろう。 息苦しく感じるのはきっと走っているせいだけじゃない。 瑞貴が何故わざわざ大学にまで侑莉を探して来たのか見当がつかない。 どうしてこの大学に通っているのを知っていたのか、と疑問に思う心の余裕もなかった。 もちろん、この情報もまた履歴書を漁った結果だが侑莉が気づくはずがない。 全速力で走る侑莉をすれ違う学生達が驚いて見ている。 けれど速度を緩めず門まで急いだ。 前 | 次 戻 |