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 結局、侑莉は三日間熱で魘され、熱以外の症状はなかった事から凌に「知恵熱だな」と笑われながら看病されたのだった。

「じゃあ家主さんに優しく看病してもらってたのね」
「………」
「あれ?」

 ずん、と空気を重たくした侑莉にオーナーは首を傾げた。
 話してもらった内容からいくと凌との問題は上手く解決できているはずだ。

「……優しさって何でしょうね。辞書で調べてみようかな」
「え、そんな何を思い詰める事があるの」

 三日間、特に初めの二日間は高熱が出た為に解熱剤を飲んだ方がいいだろうという事になったのだが、長期に亘る不摂生のせいで弱りきった胃に薬を放り込むわけにはいかない。
 凌が簡単な病人食を作ってくれたのだが、それさえも体は受け付けようとしなかった。

 可能な限りは口に運んだが、量はたかが知れている。

「俺が作ってやったもんが食えないってのか。あぁ?」

 途中で諦めて薬に手を伸ばそうとすれば凌にそう脅された。
 しかも、完食するまで横でずっと見張られては更に食べ難さが増すと言っても、信用出来ないからと止めてくれない。

「もう限界なんですけど……」
「駄目だ、まだいける。言っとくけどな、これお茶碗の半分以下しか米入ってないんだぞ」
「そう言われても」
「ほら口開けろ」

 そんな攻防を何度も繰り返していると、どんどんと凌の態度が悪くなっていって、最終的には顎を掴まれて無理矢理口をこじ開けてスプーンを突っ込まれるという、侑莉にとってはトラウマになりそうな方法で食べさせられた。

「あんなの病人に取る態度じゃない……、うう思い出しちゃった」

 手で口を押さえる侑莉にオーナーは苦笑した。
 侑莉には辛かったかもしれないが、想像するとなんだか微笑ましい。

 それに、今までは凌に対する不満を言ったりしなかったのに、拗ねたように愚痴をこぼすのは遠慮が無くなった証拠だ。

「まあ良かったよ。侑莉ちゃんもこれで完全復活だね」
「色々ご迷惑おかけしました。三日もバイト休んじゃったし……」
「なーに言ってんの、こんなの迷惑のうちに入らないよ。深夜連中に比べたらね!」

 オーナーがキッと天井を睨んだのは、今頃上のマンションで寝ているであろう瑞貴を指しての事だ。

 侑莉も蛍光灯しか見えない天井を見上げた。
 瑞貴にもきちんとお礼を言わなければならない。

「そうだ、お給料。これ渡さなきゃ何の為にバイトしてんのかって感じだよね」

 お疲れ様、そう言って渡された茶封筒を侑莉は両手で受け取った。

「それで何か買いたい物とか決めてるの?」
「そう……ですね。使い道は決めてます」

 アルバイトをしようと決めたきっかけがあった。
 初めから、アルバイト代は全てそのために、と思っていた事。

 侑莉はオーナーに笑顔を向けただけで、使い道は教えてはくれなかった。



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