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 煩わしいと言っては切り捨てられるような人間関係しか築いてこなかった事を。それを侑莉に知られてしまった事を。

 こんな凌だからこそ、侑莉は好きになるんじゃなかったと思い詰めてしまったのだから。

 凌はポケットから携帯電話を取り出すと、侑莉の手に乗せた。
 意図を測りかねてそれを眺めながらパチパチと目を瞬かせている。

「好きにしろ。それが無かったら連絡のつけようのない女ばっかりだ」
「へ? ……いや、好きにと言われても。それに、仕事だってこれが無いと……」
「大丈夫だ。侑莉が持っててもいいし壊してもいい。得意だろ?」
「と、得意じゃないですよ!」

 突き返そうとしたが、凌は受け取ろうとしなかった。
 それがどういう意味なのか侑莉にも分かる。

 嬉しいはずなのに、こうも簡単に渡されてしまうと少し怖い。
 侑莉もすぐに同じ運命を辿るんじゃないだろうか。
 思った事がそのまま顔に出たらしく、凌は眉間に皺を寄せた。

「お前を手放す気なんかない。この俺が執着してんのなんか初めてなんだからな。解れ」

 勝手な言い分だが、侑莉にはこのくらい言わないと想いは伝わらない。

「あとな、お前も他の男の方見んなよ。えらくバイトの客にモテてるらしいけど」

 以前、侑莉が持って帰ってきていた名刺はほんの一部らしいと、今朝入ってきていた瑞貴からのメールで知った。

 その他携帯番号やメールアドレスの書かれた紙を渡されたりという事が頻繁にあるらしい。

「あ、あれは……こっちから連絡はしませんってちゃんと、断ってます」

 携帯電話を持たない侑莉には、渡されたところでアクションの起こしようがない。

 急に振られた話題に、しどろもどろになりながら無難な言葉を返すも、凌は不満そうに見下ろしてくる。

 既に凌は侑莉の本音を理解しているが、敢えて本人から言わせようとしているのだと気付いた侑莉は、忙しなく目を動かして狼狽えたが、外れない凌の視線に堪えかねて早口で捲くし立てた。

「香坂さんがいるのに他の人に目が行く余裕なんてありません!!」

 言ってしまった……。
 恐る恐る凌の顔を窺い見るとニンマリと笑っていて、なんだか恥ずかしいと言うより負けた気分になった。

 頭を撫でながら「そういやお前、しんどくないのか」なんて今更過ぎる気遣いをする凌に肩を落とす。

「すごく疲れました……」
「なら寝るか」

 侑莉をベッドの奥に寝かせて、当然のように凌もベッドの中に入ってくる。

「や、ちょっと香坂さん!?」
「一人じゃ寂しいんだろ? 俺が優しくもぬいぐるみ代わりになってやるっつってんだ。さっさと寝ろ」

 こんなふてぶてしいぬいぐるみがあるだろうか。しかも侑莉が逆に抱き込まれてしまっている。

 この状況で眠れるわけがない。
 なんとか脱出しようと試みるが「襲うぞ」の一言で身動きが取れなくなった。

 本当この人にはどうやったって敵わないんだわ。

 開き直った侑莉は、考えるのを止めて素直に温もりに縋る事にした。

「一時間後に起こすからな。そしたら飯だ」

そう言って、ゴソゴソと動いて一番収まりが良い場所を探し当てて眠りにつこうとしてる侑莉の髪を梳いた。





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