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「誰のせいだと……」

 凌はベッドから降りて、また瞳に涙を溜め始めた侑莉を掻き抱いて、あやすように背中を撫でた。

「あーはいはい、分かったから泣くな」
「分かったって、何を……」
「こんな泣き喚かれても苦じゃないなんてどうかしてる。これがお前の言ってる好きってのと多分同じなんだろ?」

 何を言ったのか理解出来なかった。
 難しい事を言ったわけじゃないのに、頭に入ってくるまでに随分と時間が掛かって、そして理解してから頭が真っ白になる。

「こ、香坂さんが好き、とか似合わない……」
「俺だってまさか自分がこんな事思う日が来ると思わなかったから、今の今まで気付かなかった」

 だけど思い返してみれば、これが好きだという事なんだろうと言える場面が幾つもある。

 侑莉の気持ちに気付いても、これまで相手にしてきた女達のように切り捨てようなんて考えなかった。

 それに、まず一ヶ月もの間ただ一緒に生活するだけで手を出さなかった自分に驚く。 相手に気があると分かっていたのだから尚の事。


 凌が言えば侑莉は拒まなかっただろう。けれどしなかった。出来なかった。
 『実は出て行ってほしくないだろ?』

 ああ、そうだよ。きっと拒まない代わりに侑莉は出て行っていただろう。
 無意識にでもそれを避けていたんだ。

 まだまだ思い当たる節は山ほどある。一々挙げていってはきりがない。
 だけど、侑莉が必要とするなら全部挙げ連ねていってもいい。

「で、これでもまだ出て行くって言うか?」

 ここで肯かれたとしても離すつもりは無いが、同時に侑莉が嫌がる事を強制するのを躊躇う自分もいる。

 なんとも厄介な想いを身につけてしまったものだ。

「……侑莉?」

 一向に返事をしようとしない侑莉に痺れを切らせて名前を呼んで催促すれば、侑莉はピクリと凌の腕の中で身動ぎした。

 凌の肩に顔を埋めているから見えないが、代わりに視界に入ってきた耳が真っ赤になっていて、それがもう答えのように思えた。

 暴れないのもいい証拠だ。

「ここにいたいです、でも、好き……とか言われたら、欲が出てくるというか」
「欲? ああ、何なら今からするか。ベッドあるし」
「なっ、香坂さん! ああ、じゃないですよっ。私真面目な話してるんですけど!?」
「俺だって至って真面目に言ってるんですけど?」

 口調を真似て言い返せば、からかわれていると思ったのか顔を真っ赤にしたまま顔を上げて睨んでくる。

 更に凌を非難しようと開きかけた口を塞いでやろうと顔を近づけると、察知したらしい侑莉に素早く手で口を押さえられてしまった。

「……他の女の人達ともこれまで通りです、よね?」

 さっきまでと打って変わって不安そうに見上げてくる侑莉が何を言いたいのか分かった。

 特定の恋人を作ろうとせず、誘われるがままに複数の女性と関係を持っていた凌を侑莉は知っている。

 侑莉がここで暮らすようになってからもずっとそうだったから当然だ。

 だから、これからも変わらないのでしょうと言っているのだ。

 馬鹿かと怒鳴りつけたくなったが、今までの自分の行いを思えば出来るはずもない。
 初めて後悔した。



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