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 暫く経っても凌は変わらず侑莉見上げてくるだけで、そこに不快は見て取れない。
 それだけに、次に返ってくる言葉がどんなものかと緊張する。
 無意識に凌の服を握る手に力が入った。

「なんだ、元気だな」

 気が抜けるくらいに明後日な方向の返事が来た。

 告白に対しての反応はないの!?
 さすがにそこまで言う威勢は無くなっているが、それでも早く答えを聞き出したい。
 でないと侑莉は身動きが取れないからだ。

「香坂さん……他に何かありませんか」
「まぁお前が俺を好きだって知ってたからなぁ」
「へ?」

 まじまじと見つめてくる侑莉を凌は抱き締めた。
 今度は何の抵抗もなく大人しくしている。

 侑莉はそれどころじゃなかった。
 ちょっと待って、ちょっと待って!

 混乱しきった頭を落ち着けようとその言葉ばかりを繰り返すも、そこから先に思考が一歩も進まない。

 一体誰に疑問を投げかけているのか、目の前で思考の渦に巻き込まれて遭難しかかっている侑莉を掬い上げるわけでなく、凌は可笑しそうに見ていた。

 それに気付いた侑莉は一度萎んだ自分勝手な怒りがまた膨らんできて、間近にある凌の顔を睨み付けた。

 こっちは体調崩すくらい真剣に悩んでたっていうのに笑う?

 気持ちを抑え込んででも一緒にいたいと必死に隠そうとしていた所とか、この人はずっと黙って見てたっていうの。

 それは凌が侑莉の事を何とも思ってないからこそ出来た事だろう。

 今なら、凌が優しいと言うと誰もが否定した理由が理解出来る。

 なんて底意地の悪い人だという怒りと、一人相撲を続けていた恥ずかしさをぶつけるように凌の肩を乱暴に押して立ち上がった。

「だから、好きになんてなりたくなかった……、もうホント無理。実家に帰らせてもらいます……」
「お前はどこの妻だ」

 ベッドの下に置いてあったカバンを開けて、その中にこの一ヶ月で増えた荷物を次々に突っ込み始めた侑莉の腕を掴もうと伸ばした凌の手は、思いがけず寸前で叩き落とされた。

「触らないで下さい」

 横目でジロリと睨みつけてくる姿は、下手に手を出すと噛み付いてくる犬のようだ。

 さっきのように、溜め込んでいた感情が堰を切って溢れ出したのとは違う、これは完全に拗ねてしまっているのだ。

 さっきのように、溜め込んでいた感情が堰を切って溢れ出したのとは違う、これは完全に拗ねてしまっているのだ。

 ちょっと面白がって揶揄いすぎたか。
 侑莉が泣くのも怒るのも、初めてだったからついつい度を越したらしい。

「おい」
「話しかけないで下さい、放っておいて下さい」

 取り付く島もない。
 ついに目さえ合わさなくなった侑莉に、どうしたものかと頭を掻く。

「そんなにここにいるのが嫌か」
「……いや」

 荷物を詰める手を止めた侑莉は下を見たまま震える声で呟いた。

「……じゃないです。ていうかさっきから言ってるじゃないですか、一緒にいたいって! 聞いてなかったんですか!?」
「んな事言ったか?」
「知りませんよ!」
「メチャクチャだな、おい」

 自分が何を言って、何を心の中で叫んだのか、その境が不鮮明になっているくらいに頭の中がぐちゃぐちゃになっている事を侑莉自身もよく分かっている。



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