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 むしろ侑莉の存在は邪魔にしかならないし、これ以上凌に迷惑を掛けられない。
 もうここにいない方がいいのに、一度自分の気持ちに気付いてしまったら離れ難いと思う心まで生まれてきた。

 どこまで行っても弱い自分に心底嫌気が差す。
 夕食の後片付けをしながら零した言葉は、蛇口から流れる水音がかき消してくれるはずだった。

「最低って、凌が?」
「違……っ!」

 ただの独り言に返事が返ってきて、その発言で相手が凌ではないと考え付く前に反射的に振り返った。

「え」

 目の前に居たのは見た事のない男。凌は今お風呂に入っているはずだ。

 だから声がした時点で分かったはずなのに、全く知らない男が家に堂々と不法侵入してきているという事態に頭がついて行かず、反応が遅れた。

 一瞬、侑莉の顔を見て時間が止まったように固まった男が弾かれた様に我に返って、抱きついてきた。

「きゃぁーーー!!」
「あ、こら……しーっ!」

 男は慌てて侑莉の口を手で押さえたが、切迫した悲鳴は向こうにいた凌に届いたらしく、すぐに荒々しくドアが開いた。

「侑莉!? ……一秒以内に俺の視界から消えろ、このカス!!」

 ゴンと何かが侑莉に引っ付いている男の頭に当たって床に落ちた。カラカラと軽い音を立てて回っているものは金属の灰皿だった。

 痛みに男が蹲ったのを見計らって、侑莉は凌に駆け寄る。

「香坂さん……あ、あの人が勝手に!」
「ああ大丈夫だ。瑞貴、不法侵入で警察に突き出すぞ。ていうか一秒以内に消えろっつっただろう、さっさと出て行け」

 凌の常より低く威圧感のある声に、背に隠れている侑莉の身体が緊張して硬くなった。

「お前は物理的に無理な要求をさらっとすんじゃねぇよ! しかもめっちゃ痛いだろうがーっ!」
「喚くな駄犬。警察より保健所に連絡するか?」
「てんめぇ」
「あの!」

 一人、置いてけぼりを食らっていた侑莉が遠慮がちに口を開く。
 二人は言い合いをやめて侑莉を見たが、視線が集中するとそれはそれで居心地が悪い。

 聞き流せない言葉があった。さっき凌は瑞貴と言わなかっただろうか。
 だけど瑞貴は女性のはずだ。そうでなければ説明がつかない事が多い。

 女物の化粧品や入浴セット。そんなものを目の前にいる男性が使っているとも思えない。

 一体何がどうなっているのか。

 自分だけが除け者になっているような気分になってきて、堪らなくて凌の服を掴んだ。

「なんだ?」
「あ、いえ何て言うかその、瑞貴って女の方じゃないんですか?」
「お前……頭と目、大丈夫か?これが女だっていうなら俺は女嫌いになるぞ」
「凌はホンット失礼な奴だな! 俺が女になったら美人に決まってんだろ!」
「そういう話じゃなくて」

 どうしてこの二人は見事に会話を脱線させてしまうんだろう。
 うまく自分の持って行きたい方向に話が流れていってくれない。



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