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「メイク落しとか化粧品、色々置いてあるの瑞貴さんのだって」
「まだ置いてたのか。あれは凌がここに女連れ込んだ時に、揉め事に発展しないかなぁっていうちょっとしたお茶目心でな!」

 瑞貴は笑っているが、それが現実に起きれば笑い事では済まされない。

「女なんか連れ込まんから意味ないって言ってんのに」

 呆れながら言う凌の言葉に、瑞貴は「いやここにいるだろう」と侑莉を見た。

 それに気付いた侑莉は眉を下げて笑う。 凌は侑莉を全く女として見ていないのだとはっきりと言われた事になる。

 最初から分かっていた事だし、今までなら何とも無かっただろうが、自分の気持ちに気付いた以上は面と向かって言われるときつい。

「あー俺もちょと聞きたいんだけどさ。侑莉ちゃんって弟いたりする?」
「え、はい。巧っていう」
「やっぱり! いやもうソックリだよな。さっきは驚いて思わずギュッてしたわ」

 突然抱き締めてきた事を言っているのだろう。
 悪びれる様子も無くヘラヘラ笑う瑞貴に、どう返すべきか言葉が見当たらずに困っていると、凌が彼の頭を思い切り殴った。

 さっき灰皿を当てた場所を狙って。

「いってぇー。何すんだ」
「死ね、変態有害物質」
「あぁ? 何を言う。俺は無害の上を行く地球に優しいクリーン人間だ! マイナスイオン放出できんだよっ!」
「変態有害に馬鹿も追加で」
「居酒屋の注文みたいなノリで言うな!」

 もうここまで来てしまうと会話を軌道修正しようとも思わない。

 想像していたものとは違っていたが、やはり凌と瑞貴の間に侑莉が入っていく事は出来そうになかった。

 二人の掛け合いを聞いていると、ついつい笑ってしまう。

 ほとんどが暴言なのだが、ああ仲がいいんだなと思わせるやり取りが続いている。

「で、なんでお前が侑莉の弟知ってんだ」

 急に凌が本題に戻した事で、瑞貴と侑莉が同じように目を丸くした。

「色々あったんだけど説明が面倒だな。あいつよく学校帰りに店来てたから、それで知り合ったって事で」

 それは嘘だという事だろうか。首を傾げながらも侑莉が聞いたのは別の事だった。

「店……ですか?」
「聞いて驚け! 実は俺、侑莉ちゃんがバイトしてるコンビニの店長です!」
「ええ!? あ、も、もしかして新岳店長さん……?」

 そういえば、オーナーが店長の新岳と凌が友達だと言っていたのをやっと思い出した。

 「新岳 瑞貴(しんたけ みずき)でっす」と笑う目の前の男の人をもう一度まじまじと見詰める。

 凌と自分のバイト先の店長が仲が良いと聞いた時も偶然ってあるものだなと思ったが、まさかその彼が瑞貴で、しかも弟の巧とも接点があろうとは。

「俺ら全く時間帯合わないもんなぁ。それはそうと最近巧来ないんだけど、どうしてだと思う?」
「さ、さぁ。夏休みだからじゃないですか? 多分」
「避けられてんだろ」
「あーそうか、夏休みか」

 侑莉の意見に納得した瑞貴だったが、凌が小さな声で「現実逃避」と言ったのを侑莉は聞き逃さなかった。きっとそうだろう。



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