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 思い返すまでもなく出会いからして普通じゃない。

 侑莉は突飛な行動を取るばかりで凌の話を全く聞こうとせず、それにつられたように凌自身も自分で信じられない事に侑莉を家に招き入れてしまった。

 常識の無い、押しの強い女かと思うと一歩も二歩も下がった気の弱い性格をしていて、でも強情。

 一貫性のない様は以外にも見ていて飽きないと感じさせた。
 唯一つだけ、侑莉に対して苛々とする時がある。

 凌は何も思っていなくても、すぐに申し訳なさそうに謝ってくる、あの時の目が気に食わない。

 別に責めているわけではないのに、怯えと恐れを多分に含んだ表情をされるとたまらなく不快だ。

 そう感じるのに出て行かせようと思い至らなかったのは、自分で感じている以上に侑莉といる空間が心地良かったからだろう。

 もともと凌は誰かに感情を左右される事は少ない。
 煩わしいと思う前に相手を切り捨ててしまうからだ。

 新岳は凌がどんなにキツイ言葉を投げかけても、けろっとして堪えない。だから友人という位置についていられる。

 侑莉も凌が何を言っても笑って流すだけだから、その点では二人は似ていると言えた。
 相手に気を遣って話す気など更々無いが、それでも一々突っかかってきたり泣かれたりするのは鬱陶しくて仕方が無い。

 それがない侑莉を凌は気に入っているのだ。

 愛だの恋だのと凌にとって理解し難い領域の想いかどうかは判断のつけようはないが、そうであっても無くてもどちらでもいい。

 ただ侑莉に名前を呼ばれるのは嫌いじゃない。
 仕事から帰って来たときに自分の部屋に明かりが灯っているのも、侑莉がいるのだと思えば悪くない。

 これが凌の行き着いた答えだった。





「侑莉ちゃん元気だして!」
「え、やだなオーナー私は元気ですよぉ……」

 間髪入れずに返ってきた答えにオーナーは額を押さえた。

「空元気にも失敗してるのに嘘つくんじゃない」

 業務用冷蔵庫に凭れ、膝を抱えてしゃがみ込んでいる侑莉は沈み込んでいて、周囲の空気がどんよりとしている。

 先ほどから何度も吐き出される溜め息とともに生気も出て行ってしまっているみたいで、どんどんと表情が暗くなってゆく。

「今ならバッチリ死相も出せると思います……!」
「出しちゃダメだから! それ全然元気じゃないから!」

 昨日までは普通にしていたはずの侑莉のこの落ち込みようは只事ではない。

 出勤してきた侑莉がいつまで経ってもカウンターの方に出てこないから、何をやっているんだろうとスタッフルームを覗きに来て見ればこの状態だった。

 「こら、早く仕事しなさい」という経営者として当然の言葉も喉の奥で消えてしまった。

「何があったの。どうせ家主さん絡みでしょう」
「どうせって……そうなんですけど。でも香坂さんと何があったていうか、その……」
「その?」
「う、うわぁぁぁーん!」

 いきなり奇声を発したかと思うと、侑莉はガバァッと床に突っ伏して動かない。



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