▼page.3 「もう絶対答えが出るまで今日は寝るなよ? そして俺がこんなにも親切に講義してやったんだ、ここの代金は凌持ち! あと、家帰ったら冷蔵庫開けろ。いいな、分かったな!」 不満を言いたげに口を開いたが、結局何も言わずに伝票を引っ手繰って凌は立ち上がった。 新岳の言う通りにするのは癪だったが、家に帰って冷蔵庫を開けてみて舌打ちをした。 中には侑莉が来てから途端に増えた食材と、すでに出来上がった料理が一食分入っていたのだ。 侑莉の分にしては多い。明らかに凌のために作られたもの。 「香坂さんもう一枚いります?」 「いや、いい」 自分の世界に入っていた凌は侑莉に問いかけられて我に返った。 凌の思考はずっと違うところに行っていたが、その間侑莉の方を見ていたから、まだ食べたりないと勘違いされたようだ。 「今日は俺の晩飯作るな」 もうホットケーキを作り終えて片付けに入っていた侑莉は、手を泡だらけにしたまま凌を見た。 一応、凌の分も毎晩作っている事を気付かれていないと思っているから、どうしていきなりそんな事を言い出したのだろうと首を捻る。 「冷蔵庫にあるやつって俺のだろ? あれでいい」 「冷蔵庫? あ! いえ、あれは私が昼と夜に食べ……」 「横取りする気か」 「香坂さんにはちゃんと違うの作りますよ!」 どうやら昨日のものを凌に食べさせるつもりはないらしい。 気が弱いくせに、変なところで強情な侑莉は一歩も引かない。 時間もそろそろ押してきて、面倒になってきた凌は手っ取り早く侑莉が黙る強硬手段に出た。 長い髪を一つに束ねて顕になっている項をそっと撫でてから「残しとけよ」と耳元で低く囁けば、案の定、時間が止まったように侑莉は動かなくなってしまった。 そのまま凌はリビングを出て行って、暫く経ってからようやく何が起こったのか理解した侑莉は泡だらけの手で真っ赤になった顔を触り、慌てて洗い流したりと一人で挙動不審で意味不明な行動をとっていた。 前 | 次 戻 |