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「香坂さんは四日間とも家にいるんですか……?」
「俺を追い出す気か。いい度胸だな」
「ち、違いますよ! そうじゃなくて、その……もし恋人がいるんだったら私ものすごく邪魔、ですよね?」
「お前そういうのは一番初めに聞くべきだろ」
「あの時は自分の事だけでいっぱいいっぱいで」

 気付いた時に言えれば良かったのだが、なかなか凌に会えず時間が経つにつれて言い出しにくくなってしまったのだ。

「安心しろ、そういう煩わしいもんは作らん主義だ」
「そう、なんですか……。女性用のシャンプーとか化粧落としが置いてあったから、てっきりいるのかと思ってました」

 煩わしい、という言葉に酷く引っかかりを感じたが、そこを深く聞く気にはなれなかった。

「ああ。あれは瑞貴が置いてったやつだ」
「ミズキ?」
「アイツのなんか使いきれ。訳の分からん事言って並べやがって。アイツは碌な事しやがらねぇ、さっきもくだらん電話で安眠妨害するし」

 舌打ちをする凌に、ああそういえば酷く怒っていたと携帯を投げつけていた事を思い出した。
 だけど、家に彼女のものが置いてあるくらいに仲は良いのだろう。
 もしかしたら、侑莉が今使っている部屋のベッドなども瑞貴という女性のものかもしれない。

「ミズキさんは怒りませんか?」
「は? 怒る? 何で」
「私が使わせてもらってる部屋ってミズキさんの部屋、ですよね?」

 恋人ではないにしても、彼女はそれに限りなく近い人なのではないか。
 それなのに自分がこうしていていいのかと、遠まわしに言う侑莉に凌は深い溜め息を吐いた。

「あれはアイツが要らないからって押し付けたやつ。何で俺が瑞貴と付き合わなきゃなんない。アイツの趣味は小さくて可愛い男だ。つーか有り得ない間違いすんな! 気持ち悪い」
「すみ……、もう間違えません」

 つい反射的に謝ろうとし、慌てて言い直す侑莉に苦笑して、さっきからほとんど動かしていない箸の方を見た。

 半分以上残っている冷やし中華は、もう冷えてはいないだろう。
 手を伸ばして少し取ってやろうかと思ったのだが、生温くなっているのを想像して止めた。

「その瑞貴だけど。近いうちに来るかもしれん」
「そうなんですか」
「お前の事言ったら見てみたいってよ」
「えっ!?」
「まあ適当にあしらえ」

 立ち上がりながら軽く言うが、今の会話内容では瑞貴がどういう人物なのかは掴めない。
 それにどうして目的が侑莉なのか。

 凌は恋人なんて有り得ないと言っていたが、相手がどう思っているかは別だ。
 そう考えるとあまり会いたいとは思えなかった。






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