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「で、メシ」
「あ、ああ、冷やし中華にしようかと。他のが良かったら作りますよ」
「いや、それ食う」
「分かりました」

 笑顔で頷いてキッチンに立った侑莉の後姿をぼんやりと眺めた。
 どこに何が置かれているのか把握して要領よく動いている。

 二週間で凌の知らないうちに侑莉は何の違和感もないほどこの部屋に馴染んでいた。

 そう、もう二週間も経っているのだ。だがスーパーで食材を買い込んでいたのを見ると、まだここを出て行く気はないらしい。

「明日からお盆だろ。家に帰らないのか」
「できれば……」
「いいけど。ていうか大丈夫なんだろうな、ちゃんと親に言ってるのか? 今頃捜索願とか出されてたりしてても知らんぞ」

 今まで聞かなかったが、出会った日のことを考えれば多分家出だろう。
 家庭の事情かケンカかはどうでもいいが、これ以上の面倒に巻き込まれるのだけは避けたい。

「それはないと思います。私がこの辺りにいる事は知ってるんですから、探す気があるならもうとっくに見つかってるはずです」
「見ず知らずの男の家に転がりこんでるとは言ってないんだな」
「ええっと……、今はちょっと連絡の取りようがないんですよ。その、アクシデントで……携帯を」

 出来上がった冷やし中華をテーブルに置きながら口ごもる。

「落としたのか」
「いえ、壊れて捨てたっていうか……バキッて。逆パカ? ってやつです」

 侑莉は喋りながら握った両手を顔の前に持っていった。
 そして左右同時に手首を回して、こんな感じでと見せた。

「それは壊れたっていうか、へし折って壊した、だろ」
「意外と簡単だったんで驚きました」

 へラっと気の抜けるような笑いを漏らした侑莉がどういう状況でそんな事をしたのか凌には想像がつかない。
 まず家出をする事自体、有り得ないような気さえした。

「乱心ってやつ?」
「それに近い、かも。父親とケンカして家飛び出したんですけど、すぐにその父親から電話掛かってきて『携帯のGPS使えば一瞬で居場所が分かるんだからな!』って言うから更に腹立って。折った後駅のゴミ箱に捨てました」
「GPS付けれられてんのか」
「私も知りませんでした」

 下唇を持ち上げて拗ねているところを見ると、まだ怒りが残っているらしい。
 しかもそこまで過保護な親なのに、本当に捜索願だされてないんだろうなと疑問に思う。

 だが、長期にわたりこうやって何を要求するでもなく寝床を与えているのだから、感謝されこそすれ誘拐犯などに仕立て上げられることはないだろうという考えに至るとそれ以上は詮索する必要もない。

 というよりも、侑莉の事情など凌にとってはどうでもよいのだ。

「取り敢えず明日からのメシの心配はしなくていいって事だな」
「お仕事休みなんですね」
「ここんとこ休日出勤までさせられてたからな。四日間がっつり休ませてもらう」

 侑莉はもうほとんど空になりつつある凌の皿を見ながら、どう話を切り出そうかと迷っていた。
 それはオーナーにも言われた事。



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