▼page.2 「まーったく、時間とお金にルーズな男ほど嫌われるものないよ!?」 インターホンが鳴るとともにオーナーと、彼に引き摺られる頼が入ってきた。 どうせ寝てて遅刻してくるに決まっているから、と言って起こしに行っていたのだ。 半分以上目が閉じている頼を見れば、本当にさっきまで寝ていたようだ。 このコンビニは四階建てのマンションの一階部分にある。 希海は二階、頼は三階の一室を借りて住んでいるらしい。 階段を上り下りするだけの距離だから、希海は夜にバイトしている。 「はよーっす」 「岸尾寝すぎ」 「いつまでも寝られるってのは若者の特権だからな!」 「意味分かんないし」 「お前は老人決定」 こういうやり取りをしていると、二人は仲が良いと侑莉は思う。 住んでいる場所と歳が近いのも関係があるかもしれない。 そう本人達に言ったら「侑莉さんも歳の差感じた事ないよ」と返されてしまい、それは自分が子どもっぽいからだろうかと内心ショックを受けた。 侑莉は十九歳で頼と二歳、希海とは三歳の差がある。 今は侑莉の事をさん付けで呼んでいる頼だが、初対面では同い年だと思ってアンタと言っていたくらいに童顔なのも手伝ってか、あまり年上だという意識を持たれていないらしい。 「侑莉ちゃんお疲れー。でもその前に一つ。明日からお盆だけど家に帰らなくていいの? 家主さんとは仲良くしてる? お父様元気?」 もう交代の頼も来たので帰ろうとしていた侑莉に、バックルームのイスに座ってパソコンの画面を眺めていたオーナーが聞いてきた。 彼は侑莉がこの街に来た理由を知っている、というよりも侑莉から無理やり聞き出している。そして凌の家に居候している事もだ。 「一つって言いませんでしたか……?」 「気にしない、気にしない」 「えと、家には帰りません。連絡も全然入れてないんですけど、父は元気だと思いますよ」 あの人が病気に掛かるなんて想像できないし、と心の中でそう付け加えた。 それに、侑莉が帰りたくなくても父親がその気になれば強制的に連れて行かれるだろうから、放っているという事は今はまだ好きにしていいのだろうと考えている。 もしかしたら弟から何か一言あったのかもしれない。 それから、今居候しているマンションの方へ意識を移した。 オーナーが言っていた家主とは凌のことで、知らない人を名前で呼ぶのは抵抗があるからと『家主さん』という奇妙なあだ名を付けれられ、ここではそれで通ってしまっている。 「香坂さんは分かりません」 「はい?」 「あれから一度も会っていないので」 一週間前、バイトの帰りに偶然凌に会って一緒に帰り、晩ご飯を食べ終わるまでの少しの時間だけ会話を交わした次の日から、また凌の仕事が忙しくなったのか殆んどマンションにいる事はない。 前 | 次 戻 |