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「あの……?」

 侑莉は確かに一昨日ここを訪れはしたが、そこまで長居をしたわけではなく、まさか一度きりで顔を覚えられていたとは思わなかった。
 しかも話題に上げられていたなんて、何か迷惑でもかけただろうかという不安がこみ上げてきた。

「すみません、何か私迷惑をかけましたか?」
「いえ、この二人がバカで失礼なだけなんです。気にしないで下さい」

 申し訳なさそうに謝る希海と、彼女に頭を叩かれてペコリと頭を下げる二人。

「良かった、ならいいんですけど……」
「バカでもいいんですか?」
「ち、ちがっそうじゃなくて!」
「ですよね。バカはダメですよね」

 ニコッと笑って殊更にバカを強調して二人を攻撃する希海。
 オーナーはショックを受けたと言わんばかりにカウンターに両手を付いてガックリと項垂れた。

「頼くんと一緒にされたー……」
「光栄に思えよ!」
「そんな無茶なこと言わないでもらえる!?」
「私からすれば二人と深夜組はみんな同類だよ」
「うっそ、新ちゃん達とも!? もう僕立ち直れない……」

 この人たちはいつもこの調子なのだろうか。
 またも置いてけぼりを食らった侑莉は静かにそんな事を思った。
 話が掴めないからただ聞いているしかできないが、三人は仲が良さそうで自然と笑ってしまう。
 その侑莉の小さな笑い声にオーナーがハッとして向き直った。

「ホンットすみませんー」
「いえそんな……。あ、そうだ」

 すっかりとここに入ってきた目的を見失うところだった。

「外の求人の張り紙見たんですけど。まだ募集してます?」
「つまりアンタここで働きたいって事?」

 客が侑莉以外誰もいないのをいい事にカウンターに手をついてダラけた姿勢で岸尾が、けれど表情は興味津々の態で訊いた。

「はい。もう……締め切った後でしたか?」
「お名前は?」
「宮西 侑莉です」
「侑莉ちゃんね。よし採用!」
「へ?」

 オーナーが勢い良く差し出した手に思わず自分の手を合わせて、ガッチリと握手を交わしてしまった侑莉はまだ状況がまだ掴めていない。

「えと、私まだ履歴書とか……」
「そんなの今テキトーに書けばいいよ。で、いつからシフト入れる?もう今から入ってもらってもいいくらいなんだけど」

 手を握ったままのオーナーの頭を両サイドから希海と頼が殴り、手を無理やり引き剥がしてバックルームに引きずり込む。

「お姉さんも入ってきて」

 希海が手招きをしてバックルームに引っ込んでしまうと一瞬どうすればいいのか悩んだが、「スタッフルーム」と書かれたドアから遠慮がちに中に入っていった。




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