▼page.4 「若気の至りでね、昔手当たり次第に色々と習得したのよ」 それは知識に貪欲な賢者としての気質のせいか。 本当に何でもやってそうだよね。詳しくは聞かないけど。 「ハルちゃんも素質あるわよ。動きに無駄がないからすんなり呑み込めてるみたいだし」 「良かった。何の経験が何処で活かされるか、本当に分かんないもんだね」 昔取った杵柄っていうのか。そもそも身体を動かすのは好きだしね。 「……なんか最近こうやってソレスタさんと二人で語る事多くない?」 「どうして不満顔で言うのよっ」 別にいいんだけどさぁ。なんで七百歳越えのおじいちゃんとガールズトーク的な事してんのかなぁって疑問がね。高校でだってこんなのしなかったよ。 何それ、そんだけソレスタさんが女子力高いって事か? み、認めない。 女の私がオネエ言葉の男に負けるなんて……! 「しっかし、ソレスタさんはなんでも持ってるなぁ。知識に魔力に地位に美貌に女子力」 「女子……? まあ、アタシだって最初から何でも持ってたわけじゃないわよ」 「そうなの?」 そんな風に言うなんてちょっと意外だ。 「知識なんて学ばなきゃ身につかないし、アタシの場合は魔力だって全部が全部持って生まれたものじゃないもの。この桁外れた力はもらい物よ」 「ま、魔力ってあげたり貰ったりできるものなんだ……」 知らなかった。某正義の味方な動くパンの顔みたいなもの? でもあげちゃったらヘロヘロになっちゃうんだよね。魔力はどうなんだろう。 「術式を発動させられればね。でも実行する人は滅多にいないわ。魔力の枯渇は即命に係わるもの。逆に人より多く魔力を持っている者は長命ね」 「へぇ、生命力みたいなものか」 「生命力? なるほど、その表現いいわね」 この世界には無い概念だったらしい。私がいた所では魔力がないのと同じか。 「でも、生命力を貰うって事は、あげた方は」 「当然寿命が縮まるわね」 私の頭の中で、禍々しい黒魔術によって人から魔力を絞りつくして自分のものにするソレスタさんのイメージがもんもんと繰り広げられていた。 エロイムエッサイム!? 僅かに距離をあけた私に、ソレスタさんは考えが分かったのか声を上げて笑った。 「いやねぇ、言ったでしょ。貰ったのよ。アタシの師匠にね」 「ししょー」 実にバカっぽい復唱してしまった。 この規格外の人の師って言われても想像がつかない。でもソレスタさんにも見た目相応の年齢だった時代があったわけで。 その時にならいてもおかしくない。でもやっぱり違和感! 「どんな人だったの?」 「一言で言うと奇人」 「…………」 あれ、急激に訊く気が失せてきたような。 「恐ろしく有能な魔導師で、彼女こそが本物の大賢者だったわ」 女の人だったんだ。 話の腰を折りたくなくて黙って頷くだけにした。 「人智を凌駕した膨大な知識量と魔力を持ちながら、あの人は一切生に執着しなかった。長生きなんて面倒な事は嫌よって言ってアタシにぜーんぶ押し付けてきたんだから」 眉を下げて困ったように笑うソレスタさんの瞳には、言葉とは裏腹に懐かしさと親しみと敬愛を滲んでいた。 きっとお師匠さんが大好きだったんだ。恋かどうかは分らない。どういった種類かまで私は察せられないけど、れっきとした愛を彼から感じる。 ソレスタさんの身体の中にある魔力は、彼の大切な人のものなんだ。 うーん、もしかしてこのおネエな喋り方ってお師匠さんの真似なのかな? 「竜人の魔力を人に与えるなんて、本当破天荒もいいところよ」 「りゅうじん?」 私さっきから平仮名の単語で聞き返してばっかなんですが! この世界の当たり前は、私には難しい。結構色々と学んだ気でいたけど、全然まだまだだ。 「神獣である竜の眷属が竜人。外見は人と変わらないんだけど、力も知恵も寿命も桁外れの生き物よ。大陸の最東にあるロウラン王国は竜人が王として治める唯一の国よ」 「この国には竜人っていないの?」 「多分いないんじゃないかしら。そもそも少数の種族だし、ほとんどはロウランにいるのだと思うわ」 ほお。なるほどなるほど。 ぴろりろりーん、ハルはレベルがアップした。学力が二上がった。 人間に獣人と魔物。この三種類だけだと思ってたら神獣にその眷属とな。 後から後から設定が増えてきても私の可哀そうな出来の脳みそじゃおっつかないよ。 まぁ、ロウランという国にしかいないなら当面私が竜人に会う事はないだろうから忘れてもいいよね。ね!? ソレスタさんにお師匠様がいたという事だけ覚えておこう。 「さ、そろそろ練習再開しましょうか」 「あいあいさー」 地べたに座ってたからスカートについた土を払いながら立ち上がった。 気合入れてこう。ミラちゃんも頑張ってるんだ。 「……ホズミ今頃何やってんのかなぁ。ディーノちゃんと遊んであげてるかなぁ」 「少しくらいホズミ離れしたらどうなの!?」 前 | 次 戻 |