▼page.1 祭りまで一週間を切り、町中が浮ついて落ち着きがない。 大広場に大掛かりな足場が組まれ、舞台を造っている。 ここで儀式が行われるらしい。鏡はやっぱり仕方ないので別のもので代用するとか。 ディーノとホズミと三人で見学していたんだけど、なんやかんやで町の人に捕まって今こんな状況。 「そこをなんとか! お願いしますよユリスの花嫁様!」 「いやったらいや!」 「わたし等の願いを聞いてくれたら麦一年分贈呈しますからー」 「いりま、せん!」 麦を貰っても私使い道分りません。ていうか一年もこの世界にいません。 何を押し問答しているのかと言うと、鏡の代用が出来たら今度は、豊穣の神役の子が怪我の為降りてしまったのだそうだ。 ミラちゃんは声を掛けられる雰囲気じゃないしと思ったらお誂え向きに歳の頃の私がのこのことやって来たという。 「あのですね、分かってると思いますが、私はユリスの遣いなんですよ。他の神様の役とかおかしいじゃん!」 「神様はそんなこまけぇこたぁ気にしねぇよ」 「あんた神様の何を知ってるの!?」 神罰くだったらどうしてくれんだ! 死んだら祟るからな! 「ユリスの花嫁様には他にやってもらう事がある。別の者に頼みなさい」 町人VS私の終わりなき(言い)争いに終止符を打つ言葉が投下された。 少し威圧的で良く通る声だ。間違いなく侯爵様のもの。 彼は身形の良い格好で姿勢よくすたすたとこちらに歩いて来た。 皆が頭を下げて少し離れていく。貴族様に対してはそういう態度なのか。おいちょっと待て、それより高位のはずの私には随分砕けた態度だったじゃないの? 形だけ様付けで呼ばれてたけど、完全に近所の子どもに対するのと同じような態度だったよ。 私も威厳というものを備えなければならないんだろうか。でも経験値不足の為スキルを習得できない。 「ユリスの花嫁様は大祭の最後に舞を踊ってもらう事になっている」 え、そうなの、と皆がざわめく。 え、そうなの? 私も聞いてないのですが。初耳なのですが。目からウロコなのですが! 「あ、あの侯爵? 私が……ですか?」 「最初からその為に御呼びした。伝えていたはずですが」 聞いておりません。確かに大祭に参加しろとは言われていたが、何をするのかまでは全く伝えられていなかった。 ……あんのドS王めぇ!! 絶対わざと隠してたに違いない。 「申し訳ないんですけど、私、舞なんて踊れませんよ……?」 生まれてこの方一度も踊った事ないですよ。フォークダンスくらいならちらっとやったけど、そんなの経験の内に入らないだろうし。 ていうかそういう事じゃないんだよね、多分。 「問題ありません。まだ大祭まで七日あります。みっちり練習して完璧に仕上げてもらいます」 「なんですとー!!」 そ、その為にこんな早く来さされたのか。謎は解けた! 「あらあら盛り上がってるわねぇ」 いつの間にやら結構な人だかりになっているところへ、更に注目度を上げるソレスタさんがやってきた。 皆さんが作業を中断して何事かとこちらを見ている。 おおお! と大声を出したおっちゃんがソレスタさんの前に出て拝み始めた。 「美しい! その美はフライア様に勝るとも劣らない! ぜひあなたに豊穣の神の役をやってもらいたい! つーかやってくださいお願いします」 土下座までする始末。切羽詰まり過ぎだろう。 「ほほほっ! 褒めそやされても仕方がない美貌は認めるけれど、ごめんなさいね、アタシは他にやる事があるから出来ないのよ」 ていうかソレスタさん男じゃん。女の子が選ばれてきたって事はフレイア様は女神なんじゃないの? ずっと成り行きを見守っていたディーノが半目で呆れてますよ。 ホズミは眠たくなってきたらしくディーノに抱っこしてもらって半分夢の中だ。可愛い。 侯爵は……氷点下の笑みを浮かべていた。こわっ! 「他にやる事って? ソレスタさんも舞をやれとか無茶振りされたの?」 「そうよ、ド素人のハルちゃんに七日で完璧な舞を覚えさせろって言う無茶振りをね」 「……へぇ?」 「でもアタシに任せなさい! この世界一の舞師と自負するソレスタ様が立派にハルちゃんを鍛えてあげるわ!」 「ソレスタさん肩書多すぎる!」 「マルチな才能があるなんて、アタシはなんて罪な男なのかしらねっ」 バチンとウィンクかましてくるのを叩き落とす。 いちいちこの一連の流れをさせるのいい加減やめてほしい。 前 | 次 戻 |