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 私がハンナさんみたいな豊満ボディだったならいざ知らず。変態さんだけどそれはもう見応え触り応えのある身体だったもの。羨ましい……。

 ぎりり、と歯を食いしばっていると、頭より高い位置からため息がポロンと零れ落ちて来た。

「ハルのいた国がどうだったかは知りませんが、こちらの男をあまり過信しない事ですよ」

 そう言ってポンポンと頭を軽く撫でてきた。
 完全に子ども扱いじゃないか!

「でぇい!」

 ディーノの手を乱暴に叩(はた)き落とす。
 笑われるかと思って先手を打ってギロリと睨むと、意外にもディーノは困ったように眉尻を下げていた。

「俺はこうやってハルの事をわざと子ども扱いしていないと、どうにもなりませんけどね」
「…………ん?」

 今、なんと? なんかすっごい事言われたような気のせいのような。
 ぶわあああと顔に熱が集まるのが分かる。

「もう何度言ったか分りませんけど……危機感、持って下さい」

 固まる私を置いて、ディーノはくるりと背を向けるとドアに向かって歩き出した。
 で、出ていっちゃう?

「ディ、ディーノ!」

 両手を伸ばして彼の服の裾を掴む。なんとか間に合った。
 顔だけこっちに向けたディーノを見上げる。

「持つ、危機感持つけど、ディーノと一緒にいる……」

 最後の方は恥ずかし過ぎてボソボソと呟くような音量になってしまった。
 でもばっちり聞こえたらしいディーノは目を閉じて首を捻った。若干眉間に皺が寄っている。

「それ、持ってますか?」
「持ってる持ってる! 両手に抱えきれないくらいだよ!」
「ハルの両手は小さいですもんね……」

 どういう呆れ方だそれ! いっそ憐れむような目をくれるな悲しくなるじゃない!

「そうですね、一度くらい襲われてみないと分らないのかもしれませんね」
「ディーノ怖い!」

 さっきとは違った恐怖がぞくりと背筋に走った。

「ディーノを信頼してるって事だよー」
「それは全く嬉しくないんですが」
「なん……だと」

 男の人って難しい。信頼されたら普通喜ぶもんじゃないのか。

「まぁ、一緒の部屋では寝ますよ。さっきの侍女がどんな行動に出るか分りませんし。運び込める簡易ベッドがないか聞きに行こうと思っただけです」

 あ、そうでしたか……。
 ぱっと手を離した。すみません、ちょっと服皺になっちゃった。

「こんな感じに纏まりましたが、満足ですか?」

 ディーノの問いかけに首を捻る。私にではなく、あらぬ方向を向いてるから。
 足音を消して扉に近付くと内開き戸を開いた。

「おっと」

 部屋のすぐ外側に見慣れた金髪。ぱっと扉から離れて両手を上げたのは隠しようのない美貌のソレスタさんだ。

 そしてその横には何故か執事さん。
 二人はずっと聞き耳を立ててたのがバレバレな場所に立っていた。

「あっははー、お邪魔様ー」
「おやバレましたか」
「なっに古典的な事してんじゃあーっ!!」

 つーか執事さんあんた本当になんなのよ!?

 謎だわ、私が出会った人の中で一番言動が謎!!
 
「ですから初日に同室に致しますかと尋ねましたのに」

 ブツブツと文句を言いながら、屋敷に働いているのだろう男性陣に持たせていた簡易ベッドを部屋の中へと入れている。

 準備良過ぎだろう!

「で、お二人のベッドの間に衝立は必要ですか? なんならくっつけますが」
「くっつけたら簡易ベッドの意味あんまないと思います! 衝立希望!」

 そもそもこの部屋に設置されていたベッドはダブル以上に幅広なのだ。
 横に並んで寝るなら、もうそれは同じベッドで寝るのと大差ない。
 
「とか言いつつ、明日の朝には衝立は取っ払われるのよ」
「ええそうでしょうね。結局この簡易ベッドも無意味なんでしょう」

 頷き合う賢者と執事。

「仲良いねあんた等! つかそんな事にはならない!」

 ギャーギャーと騒いでいると、隣の部屋で熟睡していたらしいホズミが起きてきて、目をこすりながら「ハルうるさい……」と苦情を申し立ててきた。

 ご、ごめんなさい。
 
 ちくしょう、小一時間ほど前までのシリアスな雰囲気は何処へ消えた!
 



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