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 僅かに眉間に皺を寄せたディーノに苦く笑う。

「ディーノは嫌だろうけど、私はあなたとあの人、二人が在ってディーノ・ブラッド・ファーニヴァルなんだと思うの」
「……それは、俺が欠けているという事ですか」
「え? そうじゃないそうじゃないよ! さっきも言ったけど、ディーノはディーノなの。別に欠けてる所をお互い補うとかじゃなくてね、上手く言えないんだけど、違うの」

 心の中にある漠然とした思いは簡単に言葉になってはくれない。
 ちゃんとディーノに伝えたいのに、何と言えばいいのか分らない。とてももどかしかった。

 二人で一つとかよく聞くけど、そうじゃなくてディーノとブラッドは足したら一じゃなくて五くらいになりそうだ。

 一人ずつでも欠けてる何てことはない。むしろ有り余る存在感と力があると思う。だけど、でも。

 この人達は片方だけじゃいけない。両者がいて初めてディーノ・ブラッド・ファーニヴァル。そんな風に感じる。

 これを言ったら、二人に……いやブラッドに殴られそうだけどね。

「ディーノもブラッドもちゃんと居て欲しいの」

 要するに私はそれが一番なんだ。どっちかが消えるなんて物騒な事は絶対にさせない。
 ブラッドの積年の思いとかディーノの胸の内なんか知ったこっちゃない。

 二人は自分が私を連れてきたって言う。なら責任とって私が元の世界に帰れるまで面倒見ろ。

 私が願う事をさせてほしい。どっちかにじゃない、二人に……

「多分私は」

 二人にこの世界に呼ばれたから。ユリスはきっとディーノ・ブラッド・ファーニヴァルの請いを受けて私を寄越したんじゃないかって今なら思うから。

「……ハル?」
「ううん、でもどうしようかなって。ブラッドの事もあるしずっとディーノと一緒にいるのはいいんだけど、夜がね」
「ああそうだ、あの男と一夜を共にした話がまだでしたね」
「そこに戻るの!? 私ったらとんだやぶへび!」

 暗くなりかけた雰囲気をどうにかしようと話題変えたらこれだよ全く! ディーノしつこい。ヘビのようだ。ヘビが本当にしつこいのか私は知らないけど。

 そして一夜を共にしたとか言うな。エロい誤解を招くでしょうが。なんもなかったよ! 完全な濡れ衣……あれ、なんもなかった、のかな?

 うーん、ベロチューされたのは牢屋でだし、抱き込まれたけどそれだけだったし。
 なにか、に入るのか入らないのか。経験がなさ過ぎてよく分からない。

「思い出してるんですか、なにを?」
「ディーノ怖い……」
「潔白であれば恐れる必要はないと思いますが」
「いや自分の今の迫力分かって無いでしょ!? 小動物なら心臓止まっちゃいそうな勢いだよ!?」

 目が、目が笑ってないの!

「ディーノが心配しているような事は一切なかったと最初に言っておきます! 奴は私をホズミと同系列としてしか見てないからね、うん」

 あれは正にそんな感じだった。泣く子供には勝てないっていうそれだけだった。
 おおお、言ってて自分で傷つくわ。一応お年頃の女の子としての自覚はある。

 しかし女慣れしてそうなブラッドからしたら私なんざ取るに足らないガキだったんだな、くそっ、一発殴ってやりたくなってきた。

 決して手を出してほしかったわけじゃないけど!

「ていうかディーノ考えてみなよ。倫理的に考えて未婚の男女が同じ部屋でってのは拙い。だけど私だよ? よく見なよ、これに手を出そうと思う? ディーノなら出す?」

 ねぇよ。まずねぇよ。こんな引く手数多の選り取りみどりの美形が、こんなちんちくりんな女にわざわざ手を出したりしないだろう。



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