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 どっからどう見ても私なんかがどうにか出来る問題じゃないし、事実私じゃ太刀打ちできない。
 神よ、もう一度問います。何故私を遣わせたのですか。

 魔を打ち払うって事は戦闘とかあるんじゃないの。私運動神経そこそこしかないし、武器なんか新聞紙丸めて作った棒くらいしか振った事ない。当然経験値ゼロのたまねぎ戦士以下の活躍しか見込めないよ。

「物騒な事は全て殿方に任せておけばよろしいのよ」

 部屋に鈴の音が転がるような子ども特有の高い声が響いた。
 ずっと前を向いて微動だにせず大人しく座っていたお姫様の声と思われる。でも喋った内容があまりにも。

「あらあらラヴィったら、話の腰を折っては駄目よ?」

 優しく諭すのはその隣にいる王妃様。だがお姫様は母親の方を見て頬を膨らませた。

「折ってないもの! だってこのお姉様に恐ろしい魔物と戦えと言うの? 無理じゃない、そんなものは騎士達に任せておけばいいの、その為の彼等じゃない」

 お、大人しいお人形さんみたいな子だと思っていたら、ズバズバはっきり物を言う子だなぁ。ちょっと気持ちいい。

「なにも私達だってハル様に戦えなどとお願いするつもりは毛頭ありませんよ」

 フランツ様が苦笑する。良かった! 言われるかと思ってかなり焦ったよ。

「けれどお父様達はそういう人を望んで儀式をしたでしょう」
「そのはずなんだがな」

 そう、でしょうね。魔物なんて見た事ないけどきっと恐ろしい化け物に違いない。そんなのと戦える強い人を神に頼んだんだろう。

 なのに私が来てしまった。見るからに役に立たなさそうな。儀式の最中に私が現れた時の皆はさぞ落胆したんじゃないだろうか。

 え、もしかしてコイツがユリスの花嫁とか? マジかよぜってー使えねぇって。返品できねぇの? いや待てってもしかしたらタイミング良く空から降ってきただけの全然関係ない小娘かもしんねぇじゃん。は? 空から降ってくるとかありえなくね? まぁ本人気絶しちゃってるし、起きて確認するまで保留って事にしとこうぜ。みたいな。

 ……私のせいじゃないのに私が悪いみたいなこの罪悪感はどうしてだ。
 会話を続けるたびに私のハートがズタズタになっていくんだけど。もうやめてよー。

「大体、自分達ではどうにもならないからと言って、全く関係のない世界の人に責任を押し付けるなんてどうかしてると思うの!」
「あー……そういえばディーノはどうした?」

 娘に追及されて咄嗟に話題変えたよ王様弱っ!

 お姫様はツンとそっぽを向きながら「すぐに来ます」と答えた。私このお姫様好きだわ。

 さっき王妃様がラヴィって言ってたっけ。名前もなんて可愛らしい。お美しい王妃様に似た、透き通るような白い肌にブロンドの長い髪がよく映える。

 意志の強そうなアーモンド型の大きな瞳。美少女だ。将来が楽しみで仕方ない。

「そもそも、ディーノが不甲斐ないせいなのだわ。彼がもっとちゃんと自覚を持っていれば……」
「えぇと、申し訳ありません。私の話ですか?」

 お姫様に釘付けになっている間に開けられていたらしい扉の前に男性が立っていた。どこか困ったように眉を下げながらも笑みを浮かべ、一礼して中に入って来る。どうやらこの人がディーノさんらしい。

 赤と白を基調とした詰襟の服を着た背の高いお兄さんだ。腰には剣装着されているから、騎士さんなんだろうか。

「遅れて申し訳ありません」

 私の傍まで来るともう一度謝った。
 うわぁっ。間近で見るとやっぱり背が高い。というか、というかこの人すっごい綺麗な顔してるよ! 正統派美形だ、イケメンっていうか美形だ!

 髪は濃紺で短か過ぎず長すぎず、清潔感がある感じ。すっと鼻筋が通っていてその下の口は笑みを作るように少し弧を描いていて優しげだ。輪郭はシャープで男前度を上げている。

 おおお! やっぱファンタジーっちゃ美形のお兄ちゃんだよね! 今の私はこの世界に来て一番テンション上がってます。私だって年頃の女の子ですし? 人並みにトキメキますとも。

 興奮気味に、しかし表情には出さないように必死に押え込みながらディーノさんを舐めるように見まくって、行き着いた瞳から視線を逸らせなくなった。

 彼も真っ直ぐ私を見ていた。その瞳が見事な朱金色をしていて。

「お加減はどうですか? ユリスの花嫁様」

 ふわりと微笑むディーノさん。
 こ、こ、この人最初に私を抱きとめてくれた人だぁー!!
 



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