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 ディーノ・ブラッド・ファーニヴァル
 それが彼のフルネームらしい。代々続く侯爵家の嫡男であると共にとても優秀な騎士で、ラヴィお姫様の護衛を一任されているのだとか。ちなみに二十四歳。

 彼についての詳しい説明を聞きながら、ちらりと目の前で自分の生い立ちやら経歴を語られている本人を盗み見た。
 
 とても居心地が悪そうだ。そりゃそうだろう、止めたくても語っているのが王様と神官長様なのだからどうしようもない。

 フランツさんは素直にディーノさんの優秀さを伝えようとしているけれど、王様はあれ、彼が嫌がってるの分かってて態と色々喋ってるよね。めっちゃ顔ニヤついてるもの。

 王妃様とお姫様は我関せず。話に入りはしないけど止めもしない。

 段々可哀そうになってきた。でも私に説明してくれてるのに「もういいです」とか言ったらどんだけ失礼な子なんだってなるし。ごめんね耐えてディーノさん。

「ユリスの花嫁を召喚するには三つ必要なものがある。世界同士を繋げる事が出来る術者、神より下賜された神剣、そして神剣を振るう事を許された者だ」

 ほうあ!? ディーノさん話だと思って気を抜いてたら急に嫁話に戻った! 危ない聞き流すところだった。

 しゃんと背を伸ばして聞く体勢を整える。あ、いえ、決してディーノさんの話をおざなりにしていたというわけでは!

「神の創られた神剣は神に認められた者しか抜けない。そういった者を聖騎士と呼ぶ。神に選ばれた聖騎士が願って初めて神は花嫁又は花婿を遣わす。つまり花嫁を求めたのは総意だが、実際に君をこちらに呼んだのは聖騎士であるディーノだ」
「はぁ……そうなんで、ええええええ!?」

 今度は盗み見なんかじゃなくってマジマジと見た。ぐりんと首を回してディーノさんを見上げると、彼はさっと顔を逸らした。おい兄ちゃん女の子の目線をあからさまに避けるとはどういうこった!?

「だからなぁ」

 王様は片手で顎を触りながらニヤニヤ笑ってディーノさんを眺めながら言った。

「ハルがこちらに来てしまったのは、コイツが可愛い女の子が欲しいとか不埒な事考えたせいなんじゃないかと私は思うんだがなぁ」
「な、何を仰られるんですか!?」
「いやそれはそれで、私なんかでごめんなさい」

 どちらにせよ私の需要は全くないではないか。どうしてくれるんだこの悲しい事実。
 私がボンキュボンなパーフェクトボディなら良かったのに。

「貴女も何を謝るんです!」

 おっと怒られた。ディーノさんは真剣な瞳で私を見据えた。
 うわぁこの人いい人だなぁ。王様との対比でより際立つったらない。にっこり笑うと表情を和らげてくれた。

「私はちゃんと願いましたよ。魔に打ち勝つ術(すべ)を持った方を、と。……か弱い女性が召喚されてしまったのは、私が出来損ないの聖騎士だから、ではないでしょうか。だから何度も無理だと申し上げたのです」

 ディーノさんは苦しそうに眉根を寄せて俯く。

「しかしお前しか召喚する資格がないんだ、やってもらうしかないだろう」
「……けれどそのせいで、この方を巻き込んでしまった」

 朱金の瞳が揺れる。辛そうにゆらゆらと。そんな風に思わせているのは私のせい。自分のせいだと悔やませているのは私か。

 私が罪悪感を感じるのはおかしいかもしれないけど、ずきりと胸が痛んだ。

「本当に間違いなのでしょうか?」

 暫く沈黙を守っていたフランツさんが口を開く。

「私はあまりそうは思えないのです。ディーノ様は己の欲を先行させるような者ではありませんし、神が願いを聞き違えるはずもない。神に見初められた者しか渡って来られない以上、ハル様は確実に選ばれた方だ。となるとやはりハル様が魔を消し去る力を有しているのでは」

 全員の視線が私に集中する。え、ちょ、お待ちなさいな。私? いえとんでもない、そんな特殊能力なんて持ち合わせておりませんよ! 備えているスキルは早食いくらいですって。

「で、でも私、剣なんか触った事もないんですけど」

 ふるふる首を横に振ってみたけどみんなの凝視は解けなかった。

「魔物と直接対峙するというわけではないかもしれません。ハル様も自覚されておられないだけで、何かもっと他の方法で魔を払う力があるのでは」
「その方法とは何だ?」

 相変わらず人の悪そうな顔で王様が問う。

「分りません。それを探るところから始めてみませんか」
「……まあ良い。そういう事にしようか」

 なんだかまたアワアワしてるうちに話が進んだ。私の事なのに置いてけぼり感がハンパじゃない。
 魔物と戦う以外の方法ってなんだろう。全然想像がつかない。

「だから先程わたくしが申しあげましたのに。魔物と戦うだなんて物騒な事は殿方がすればいいと」

 ああ、そうだったね。ラヴィお姫様は結構早いうちからそう言ってたよね。
 あれは魔物を一掃する他の方法を探しましょうと、そう言いたかったものらしい。

 私達はかなり迂回して結局お姫様の意見に同意するという形を取ったわけだ。つまりこの中で一番頭の回転が速いのは、一番幼いラヴィ様だったと。そういう事ですね、はい。

 そして王妃様とルイーノさんは特に何も語らず、と。
 



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